患者自ら立つ13
*このコーナーでは、日本慢性疾患セルフマネジメント協会が行っているワークショップ(WS)を受講した患者さんたちの体験談をご紹介しています。同協会の連絡先は、03-5449-2317
発病以降、職を含む様々なものを失ってきた藤田さんは、今1つずつできることを取り戻しています。
藤田さん夫妻の住んでいた賃貸マンションが深夜に全焼したのは96年8月のことでした。以前から付近では不審火が相次いでおり、しかし夫妻はそのことを知りませんでした。たまたま午前2時ごろに藤田さんが目を覚まし最悪の事態は免れましたが、火を消そうとした旦那さんが気管のやけどで1ヵ月入院しました。犯人は分からずじまいでした。
その頃から左膝に何とも言えない痛みを感じるようになりました。スキーで靭帯損傷した過去があったので、ぶり返したのかと思って、もっぱら鍼灸でやり過ごしていました。両手首も痛みましたが、仕事のタイプライターの打ち過ぎかと思っていました。
1年半が経ち、しかし痛みは治まりません。職場の同僚から勧められ、98年2月に近くの病院の整形外科を受診することにしました。朝一番に行ったのに、手違いで診療が午後になってしまいました。それをツイてないとも言い切れないのは、その午後の診療当番医が、午前とは違ってリウマチ登録医だったのです。診断がつくまでに医療機関をさまようような人も多い中、「おそらくリウマチだと思う」とアッサリ言われてしまいました。その日は血液検査と痛み止めの処方だけ受けて帰り、次に行くと「間違いない。でも初期だから頑張りましょう」と言われました。
しかし簡単に治ると思ったのに、処方される薬が悉く効かないか体に合わないかで状態は悪くなる一方。約20年続けた精密加工部品メーカーでの貿易事務の仕事を、ITバブル崩壊の際に失いましたが、逆に辞められてホッとするくらいの体調でした。
寝たり起きたりの生活に、このままではいけないと01年10月、リウマチ友の会に入会。翌年5月には重い体を引きずって秋田で開かれた全国大会に参加しました。03年夏には、リウマチ治療で有名な中伊豆温泉病院に教育入院を4週間しました。痛いことには変わりなくても、体を動かすリハビリの仕方やベッドからの起き上がり方など生活の工夫を学びました。
前向きな気持ちを取り戻して帰ってきて、韓国語の市民講座を受講しましたが、自転車で通わなければならないのに乗れず、字も段々書きづらくなりで挫折しました。
もっと早く受けてたら
05年夏、もはや新しく出てきた生物学的製剤しか治療の選択肢はないという状況になり、8月からレミケードを使い始めました。これが劇的に効きました。それまでは旦那さんの実家のお墓参りをするぐらいしか出歩かなかったのに、旅行にも行くようになりました。
元気なので、リウマチ友の会で08年4月から支部委員をするよう頼まれ、「頑張ります」と引き受けました。ところが役員になる直前の3月、父親の一周忌を済ませたところで突然レミケードが効かなくなり、体調が悪くなりました。そんな時に、リウマチ友の会を通じてセルフマネジメントプログラムのことを知りました。別の薬を上乗せして少し体調が落ち着いてきたこともあって、思い切ってワークショップを受けてみることにしました。
そして、もっと早く受けてたらよかったな、と思ったそうです。
「自分の状態を参加者に説明します。他人に分かってもらうには、自分を客観視しなければいけないし、病気のことも説明できないといけないので、医師相手に話すのとは全然違います。講演会なんかで聴いて分かっているつもりでも、実は説明できないということがたくさんありました」
もちろん他の参加者の話に、感心したり勇気づけられたりもありました。
アクションプランは、最初は体操を頑張るとしていましたが、「本当にやりたいことに」というので、映画を見に行くプランにして実行してみました。痛みでジッと座っていられないのではと恐れていましたが、行ってみたら音や感動に痛みを忘れました。以来、定期的に行っています。
ワークショップを経て「元々落ち込むタイプではなかったけれど、さらに落ち込まなくなりました。病気になってできないことも多くなったけれど、しかし寝たきりというわけではないので今日はダメでも明日はできるかなという気持ちでいます」
今もリウマチ友の会の支部委員で結構忙しくしています。
ワンポイントアドバイス(近藤房恵・米サミュエルメリット大学准教授) 慢性の病気を持つ人には「サポートグループ」が大きな力になります。いろいろな患者会はその良い例です。同じ病気だからわかってもらえる、やっとわかってもらえる人に会えた、自分は「ひとりではない」という思いは大きな支えになります。 セルフマネジメントのWSでは、異なる病気をもつ参加者同士でサポートします。病気が違うことで、同じ病気の人同士とはちょっと違った味が出てきます。さらに、病気とうまくつきあうための技術も学びます。様々な自己管理の技術を学び、それを実際に試して、試行錯誤の中から自分に合ったやり方を選べるようになっています。