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がん 免疫との関係
免疫を欺く、弱らせる。それが、がん
がんとして発見されるものは、何らかの形で免疫による攻撃をかいくぐってきたものばかりです。
かいくぐってきた方法を大雑把に表現すると、隠れる、免疫を弱らせるということになります。それぞれ、もう少し詳しく説明します。
まず隠れる。元々が自分の細胞ゆえに、免疫が異常を検知しづらいものも発生します。そして、がん細胞の特徴は無制限に増殖することですから、何度も分裂(遺伝子のコピー)を繰り返しているうちに、始原のがん細胞ともかけ離れたような変異細胞の生じることが多々あります。
始原の細胞抗原を免疫がようやく認識して攻撃を始めたと思ったら、その抗原を持たないものが既に発生していて増殖してしまうわけです。軍服を目印に正規兵と戦っていたら、いつの間にか軍服を脱いでゲリラになっていたようなものでしょうか。新たながん細胞の特徴を免疫が認識した時には、既にその特徴を持たない細胞が発生していてと、免疫は後手後手に回ることになります。
そして、ここからが本当にがんの恐ろしいところ。
がん細胞自体が、多くの場合、免疫の働きを抑制するようなサイトカインを分泌します。体の役には立ちませんから、いわば偽命令です。もっとひどい場合には免疫細胞が、がん細胞の増殖や転移を手伝わされることすらあります。警察が犯人逮捕に行ってパトカーを乗っ取られるようなものでしょうか。
さらにがん細胞の数が増えると、免疫部隊の駐屯地であるリンパ節に入り込み、その働きを奪います。こうなると免疫細胞の数も減り、いよいよ挽回不能な状況になっていきます。
現実に即した治療法
がんが発見されるということは、既に免疫が劣勢になっている証拠です。放っておいて免疫が自力で盛り返すと考えにくいのは、ご理解いただけたと思います。
現実のがん治療では、原発腫瘍は切除手術や放射線照射で全滅を狙います。再発や転移の腫瘍に対しては、全身治療の抗がん剤投与で、敵の細胞数を減らす戦術を取ります。いずれにしても、劣勢になってしまった免疫細胞とがん細胞の力関係を、健康な時のように逆転させ、さらに免疫ががんを正しく敵と認識し攻撃できたなら、その完治は夢でありません。
ただ、いわゆる三大標準治療、その中でも特に抗がん剤の化学療法は、免疫自体も激しく痛めつけるため、なかなか免疫優位の力関係を作り出すのが難しい話ではあります。
現在は、三大療法でがん細胞の数を減らしつつ、免疫の力を持ち上げて有効に攻撃を加えさせる手(免疫療法)はないものかと、世界中で研究が進んでいるところです。
腫瘍マーカーは抗原を見ています。 がん細胞が出している抗原は、①個人ごとに全く異なるもの②がんの種類が同じなら多くの人に共通するもの③多くの人の多くのがん細胞が共通に出しているものに分かれます。血液などで②や③の抗原量を測れる場合には、腫瘍の勢いを見るのに適当な指標となります。これを利用しているのが腫瘍マーカー検査です。 正常細胞にはほとんどないような抗原に対してキラーT細胞を働かせることができたなら、大変有効な治療法になる可能性があります。