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5分ルール
「診察室に入ってから出るまで5分」というルールで、診療報酬が引き下げられる仕組みが昨年4月に導入されました。患者や医療現場にどのような影響を与えたのでしょうか。
監修/黒木副武 埼玉みさと総合リハビリテーション病院院長
大竹秀樹 板橋中央総合病院本部事務局事務長
診察室で、小さな子が泣きわめいて落ち着きません。付き添いのお母さんも、医師も看護師もなだめようと必死です。もし、医師がストップウォッチを片手に、「5分以上経過したので診察は終わりにします」なんて言ったら......。
逆に、こんなケースはどうでしょうか。例えば、ずっと同じ薬を服用している患者が、これまでと同じ薬をもらいに来ただけの場合。「お変わりはありませんね?」と確認するだけで、「5分」どころか1分もかからないかもしれません。患者によっていろいろな診察方法がありますので、「時間」という尺度で決めるべきではないように思えます。
ところが、昨年4月の診療報酬改定で、「患者が診察室に入ってから出るまでおおむね5分」という時間の目安が導入されました。5分程度の診察をしないと診療報酬を下げられてしまう。これが、「5分ルール」と呼ばれるものです。なぜ、こんなルールが必要なのでしょうか?
「5分ルール」の導入を主張した厚生労働省は、「患者に対する懇切丁寧な説明が必要だから」という理由を挙げました。近年、「3時間待ちの3分診療」と言われます。医師はもっと診察時間をかけて患者に接するべきだというのです。なるほど、言われてみればそんな気もします。「待合室で長いこと待ったのに」と思うこともあります。
しかし、「5分ルール」の導入によって、逆に待ち時間が長くなってしまいました。厚労省の調査によると、「患者1人あたりの診察時間が長くなったか」との設問に、「大いにあてはまる」「ややあてはまる」と回答した病院が44.6%、診療所では34.8%でした。
また、「診療時間の延長が多くなった」という回答は、「大いにあてはまる」「ややあてはまる」を合わせると、病院では35.0%、診療所では28.6%でした。
このように見てみると、「5分ルール」の導入が医療現場や患者にとって、決して良い結果をもたらしたとは考えにくいのです。さらに深刻なことは、「5分」という時間の目安があるために、診察できる外来患者の数が制限されてしまったことです。つまり、1時間に最大でも12人しか診察できないので、中小病院や診療所の収入が激減したという声も出ています。しかし、厚労省にとってはそれでいいのです。
手術や検査など医療行為の値段(診療報酬)は、2年に1回のペースで改定されます。社会保障費を抑制するという国の政策の流れに乗って、診療報酬も年々切り下げられてきました。
今回の「5分ルール」もその一環で、再診料に上乗せされる医学管理の費用を請求するために、「おおむね5分」の説明や診察が必要になったのです。この医学管理の費用を「外来管理加算」と言います。いったい、どのようなものでしょうか。