中央社会保険医療協議会 (中医協) ― 09年度第11回(8月5日)
基本問題小委員会の議題は、▽DPC(診断群分類点数表の見直し、新たな機能評価係数に係る検討 ▽平成20年度診療報酬改定の答申に係る意見に関する検討状況等 ▽その他(社会医療診療行為別調査のワーキンググループの報告)―の3項目。
薬価専門部会の議題は、「特許期間中の新薬の薬価算定方式」で、業界代表の意見陳述に基づいて議論。新薬の価格を一定期間引き下げない新たな薬価算定ルール(薬価維持特例)の「試行的実施」に向けて大きく前進した。
■ 基本問題小委員会
(1) DPC(診断群分類点数表の見直し)
DPCの入院1日当たり点数の設定方法を3種類に変更することを了承した。2010年度の診療報酬改定で、実際の医療資源の投入量に合わせた診断群分類点数表に見直す。「悪性腫瘍の化学療法の短期入などに係る設定方法」に従って点数を設定している診断群分類は廃止する。
厚生労働省によると、入院初期の医療資源投入量が包括評価点数を上回るなど、実際の医療資源の投入量に合わないケースが2割程度ある。このような乖離がある場合、これまでは前年度の収入実績を保証する「調整係数」で補われていたが、来年度から「調整係数」が段階的に廃止されるため、入院初期の点数設定を変えることで、「調整係数」の廃止に伴う赤字部分を補填する。
この提案は、既に6月29日の中医協・DPC評価分科会で大筋了承、7月24日に正式決定している。しかし、「トータルでの収入は下がる」「入院患者の追い出しにつながる」などの声もあり、医療機関、患者に及ぼす影響が心配される。
8月5日の基本問題小委員会で、日本医師会、病院団体の委員から同様の懸念が示されたが、最終的に了承されてしまった。平均在院日数のさらなる短縮化を進めなければ経営悪化は必至であるため、受け皿が不十分な状況での退院促進や患者の受け入れ制限などの動きが活発化することが予想される。ただ、ベッド稼働率が高い一部の大病院にとっては歓迎すべき改定かもしれない。
※ 6月29日のDPC評価分科会は、「次期改定で、脳卒中患者らの追い出しが加速?」をご覧ください。
(2) DPC(新たな機能評価係数に係る検討)
DPC評価分科会が「次期改定での導入妥当」とした4項目のうち、「DPC病院として正確なデータを提出していることの評価」と、「診断群分類のカバー率による評価」は6月24日の基本問題小委員会で承認されたが、「効率化に対する評価」と「複雑性指数による評価」については承認されなかった。
このため、厚生労働省は委員らの疑問に対する回答を用意して理解を求めたが、継続審議となった。
前回、「効率化に対する評価」について日本医師会の委員は、「DPC自体が平均在院日数を縮小(短縮)するというインセンティブが働いているので、二重評価ではないか」などと批判。また、「複雑性指数による評価」について病院団体の委員は、「このようなもの(難しい疾患)を扱っているのは特定機能病院だろう。では、特定機能病院の加算はなぜ出来高で付いているのか。これはダブル評価という見方もできる」として、特定機能病院に対する二重評価になることを指摘していた。
このほか、「複雑性指数」という表現については、公益委員が「意味がよく分からない」と指摘、遠藤委員長も「ミスリードな言葉」と評価していた。今回、厚労省は新たな名称を提案せず、「仮称」を加えて「効率性指数(仮称)」「複雑性指数(仮称)」としている。
※ 6月24日の基本問題小委員会での西澤寛俊委員(全日本病院協会会長)の指摘は、「入院初期の点数引き上げを了承 ─ DPC評価分科会(6月29日)」を参照。西澤委員は6月24日の基本問題小委員会で、「(DPCの)考え方を示していただきたい。DPCは個々の診断群ごとにしっかりした点数が付いていれば、ほかのもの(機能評価係数など)は何も必要ないという考えもあるのではないか」と指摘。これを受け、厚労省は6月29日のDPC評価分科会で診断群分類点数表の見直し案を提案。分科会で承認されたため、8月5日の基本問題小委員会に提案し、了承された。これが、(1)の「診断群分類点数表の見直し」の問題。
(3) 平成20年度診療報酬改定の答申に係る意見に関する検討状況等
次期診療報酬改定に向けた本格的な議論に入るため厚労省は、前回の08年度診療報酬改定を厚生労働相に答申する際に付された意見(付帯意見)の検討状況を示した。
前回は、改定に向けた検討項目案を07年8月8日に中医協総会に示した後、社保審の両部会(医療部会と医療保険部会)で基本方針の策定に向けた議論が9月にスタートした。しかし、今回は社保審の両部会で策定した基本方針を踏まえ、個別の検討項目を中医協に示すという形式を重視する方針。ただ、個別項目の議論を中医協で進める必要性は変わらないため、「答申の付帯意見」という形で検討項目の一部示したものと思われる。
付帯意見には、初・再診料の見直しやリハビリの「質の評価」など08年度改定で大きな議論になった項目のほか、病院勤務医の負担軽減など10年度改定でも引き続き重視すべき項目が10項目以上挙げられている。
遠藤委員長は、これらの個別項目について「全体的な意見」を求めたが、藤原淳委員(日本医師会常任理事)は「外来管理加算の撤廃」を改めて強く要求。診療所の経営悪化は、前回改定で「病院勤務医の負担軽減」を目的とした診療所から病院への財源移転に原因があると批判した。
その上で、勤務医の負担軽減策に関する中医協・検証部会の調査結果(1か月の当直回数2.78回など)を引き合いに、「私も20年勤務医をやったが、この状況を見ると、これで本当に病院の勤務医師が逃げ出すほど忙しくなっているのか、疑問を感じる。昨今の報道を見ると確かに忙しい部分もあるが、それは恐らく(診療)科の偏在であり、地域偏在が大きく関与している」などと発言、「開業医と勤務医の偏在」を否定した。この発言に西澤委員(全日病会長)が「現場を見てから発言していただきたい」と強く反発。診療報酬の配分をめぐる日本医師会と病院団体との攻防が始まったといえる。
(4) 社会医療診療行為別調査のワーキンググループの報告
厚労省の社会医療診療行為別調査の結果とメディアス(最近の医療費の動向)のデータが乖離している問題で、原因を検証するワーキンググループ(WG)の初会合を7月30日に開いたことを、WG座長の白石小百合・公益委員(横浜市立大教授)が報告した。
白石委員によると、初会合では両データを経年比較して検証。医科の「入院外」で大きな乖離が見られた原因は、診療所の「入院外」にあると分析。入院外の1日当たり伸び率が高い原因について、「処置が大きく増加したため」とした。
「処置」が増加した原因として、人工透析を実施している診療所が調査客体に多く含まれていたことを改めて確認。次回以降の会合について白石委員は、「処置等を中心にさらに検討を進めたい。試行的に『独立集計』ということも行ってみたいと考えている」と説明した。
■ 薬価専門部会
前回7月15日、厚労省が「試行的実施」を打ち出したことで、これまで導入に難色を示していた支払側委員、日本薬剤師会の委員らも立場を一転、薬価維持特例の試行的な導入に向けたカウントダウンが始まった。
しかし、限られた医療財源を製薬業界の開発原資に振り向けられることに反発している日本医師会は、依然として導入反対の姿勢を崩さず、「薬価維持特例を導入する必要性」という"そもそも論点"に固執している。ただ、薬価維持特例を導入する必要性については、他の委員からも詳しい説明を求める声があったため、業界代表の意見を改めて聴くことになった。
8月5日の薬価専門部会には、日本製薬工業協会の長谷川閑史副会長(武田薬品社長)と米国研究製薬工業協会の関口康在日執行委員長(ヤンセンファーマ社長)が出席、薬価維持特例を導入する必要性について意見陳述した。特に、長谷川社長が製薬企業のトップとして「本音」を熱く語ったことが印象的で、日医を除く委員らは高く評価した。試行的実施に向けて大きく前進したといえる。
前回6月3日に実施した業界ヒアリングの際、事務局(保険局医療課)が配布した座席表には長谷川社長らの個人名はなく、「日本製薬団体連合会」など4団体の名称が記載されていた。今回は、「長谷川様」「関口様」と記載されており、長谷川社長は「武田薬品の長谷川でございます」と挨拶した。
長谷川社長はまず、製薬業界を取り巻く環境について説明。研究開発に掛かるコストが増加する中、事業の再編・統合などの「選択と集中」を進めるとともに、人員削減などさまざまな経営努力を図っていることを強調した上で、次のように述べた。
「現行制度のままで行けば、5年から10年後には経営が成り立たなくなるということを業界側委員が述べたように聞いているが、経営者の観点から見て、そのような相関関係、『この制度がなければわれわれが潰れる』ということを申し上げるつもりは一切ない。そのために、制度改定を提案しているわけではない。既に売上げ利益の半分以上を海外で上げている企業もあり、仮に国内市場で淘汰されても生き残りは図れると思う。われわれは、自分たちの将来がお先真っ暗だから薬価制度改定を提案しているわけではない。新薬メーカーとジェネリックメーカーの棲み分けを促進し、それぞれのビジネスモデルの中で体質強化をしていくことによって、日本企業にとって本当の競争相手である海外企業とグローバル市場で闘って勝ち取った富を日本に持ち帰ってくることによって、日本の繁栄にも貢献できるとの想いから、こういう提案を申し上げている」
これは、日本医師会を意識した発言に聞こえる。また、未承認薬・未承認適応などドラッグラグの問題を解消するための業界の取り組みとして、業界が「未承認薬等開発支援センター」を立ち上げたことを日本医師会が「当然やらなければならない企業の姿勢」などと一蹴していることに対しては、次のように反論した。
「世の中には、当たり前のことが当たり前のように行われていない事例は事欠かず、また企業経営者としても当たり前のことを徹底してやることの難しさを日々、苦労しているのが実態。私事で恐縮だが、私は山口県の片田舎で、三代続いた開業医の次男。私が小さいころ、父は夜間往診があるたびに、私を車の助手席に乗せて連れて行くのが常だった。子ども心にも、父の状況の意味の大きさとともに大変さも感じた。このように、大昔の田舎の開業医にとって、当たり前だった往診も、今は地域医療も厳しくなり、あるいは交通の利便性も改善したことによって、必ずしも当たり前ではないようになっているとも聞いているが......、まあ、私が医者にならなかったのはそのせいでは決してなく、(会場、笑い)勉強が嫌いで成績も芳しくなかったことからであるのは、念のために指摘しておきたい。余談ではあるが、官民対話を通じて、官民協力によるパンデミックワクチン対策にも取り組んでいることを最後に申し添えさせていただく」
これは、日医に対する痛烈な批判といえる。最後に長谷川社長は次のように述べ、約15分間にわたる意見陳述を締めくくった。
「タイミングの問題で、『(薬価維持特例の導入が)なぜ今でなければいけないか』という質問があったと聞いている。私どもとしては、業界のエゴとか、業界のためだけではなく、医療産業、医薬品産業全体にとって進むべき方向であると確信しているし、厚生労働省が出した『(新医薬品)産業ビジョン』にも沿うものと考えている。従って、できるだけ早く実施していただくことが産業のみならず国益にもかなうと確信しているので、そのことを斟酌賜れば大変幸甚に存じ上げる」
一方、関口康社長は外資系企業の立場から、日本市場の魅力が薄れていることを指摘。その原因として、新薬の薬価算定方式が影響しているとした。
質疑で、日医は相変わらず反対姿勢を堅持したが、他の委員は業界代表の意見陳述をおおむね好意的に受け入れた。未承認問題への取り組みについての質問に対し、長谷川副会長は「真摯に対応していくことを、この場で改めて誓う」と強調。「未承認薬について、結果的にどこも手を上げなかったらどうするのかという懸念があると思うが、もし不幸にして、そういうことになれば、どこか大手が結果としてやらざるを得ないということもあり得るかなと腹はくくっている」と述べた。
また、後発品の使用促進を阻害するとの指摘が相次いでいる配合剤について、長谷川社長は「自社のみならず、製薬協、日薬連にも(中医協委員の)懸念をきちんと伝えて、できるだけそういう懸念を惹起するような(配合剤の)開発をやらないようにということを私から責任を持って伝えさせていただく」と明言した。
支払側の小島茂委員(日本労働組合総連合会総合政策局長)は「強い決意を重く受け止めたい。薬価維持特例を入れても、未承認薬(の解消を)義務付けるわけにはいかないので、そのような決意を重く思っている」と評価。その上で、事務局(保険局医療課)に対し、社保審の両部会で診療報酬改定の基本方針を議論する際、薬価制度についても議論することを検討するよう要望。「それを受け、中医協で薬価維持特例の導入が検討できる」と述べた。
このように日医以外の委員はおおむね歓迎ムード。遠藤部会長も「大きな制度改正になるので」などと前向きな発言をした。次回以降の薬価専門部会では、厚労省が示した論点案に沿って、試行的な導入に向けた個別の議論を進める。
会議終了後、保険局医療課の磯部総一郎薬剤管理官は、次のように感想を述べた。
「大変丁寧に説明してくれたし、委員からの質問にも真摯に答えてくれた。今日の場をもったことによって、業界が考えていることについて十分に伝わった。(業界代表ヒアリングを)やっただけの価値はあったと思う。業界代表が2つ、良いことを言ってくれた。1つは、未承認薬・適応外をしっかりやるということを長谷川社長という立場の方がもう一回、お話をしてくれた。それが小島委員(連合)の発言につながっている。もう1つは配合剤については、(配合剤開発の在り方を検討するよう)きちんと業界に伝えると言った。このような中医協の委員の怒りに対してきちんと理解して、『伝える』と言った。この2つの発言は、中医協の委員のフラストレーション(解消)も含めて、非常に良かったと思う」
※ 薬価専門部会の議論は、改めて別の記事で配信する予定です。