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「医行為」って知ってますか?


特権」でなく「質」の議論を

 医療従事者不足や医療費抑制政策などによる"医療崩壊"が進み、疲弊した医師が医療現場を去っている現状があります。医行為の責任が最終的に医師であることも訴訟リスクによる萎縮医療を招き、医師の負担感が増している原因の一つでもあります。そもそも、すべての責任を医師が負うことで、医療の質は担保できているのでしょうか。
 これまでの大学教育や国家試験、以前の臨床研修制度では「医師免許」に医療の質を担保できていなかったことが、新しい臨床研修医制度によって研修医個人の力量が表れるようになったことなどから見え始めました。医師免許は現状では医業を行えるという「特権」でしかなく、医療の質の担保は資格取得後の医師個人の研鑚などによって保たれてきたものでした。しかし、業界団体はその特権を守るために医行為の解釈や範囲を巡って争っているというのが悲しい現状です。
 医療は本来、国民のためのものです。より良い医療にしていくために、「医行為」を有資格者の特権として捉えるのではなく、「医師は最低限どこまですべきなのか」「誰が医行為の何をできるのか、何をすべきなのか」と考えていくことが今後は必要になるのではないでしょうか。

チーム医療に「スキルミックス」を

 その方法の一つとして諸外国から起こった議論が、医師、看護師、薬剤師など様々な有資格者が状況に応じて役割分担してチーム医療を行っていく「スキルミックス(他職種協働)」です。oECD諸国では医師と看護師のスキルミックスとして、看護師は限定された範囲での処方や、一定の条件下での死亡認定などを行っています。
 日本では07年に内閣府の規制改革会議が、医師と他の医療従事者間での役割分担の見直しを求める答申を出したことをきっかけに、厚労省が通知を出しました。医師の事前指示の下で、在宅で処方された薬剤について看護職員が投与量を調整・管理したりすること、医師が最終確認や署名をする条件で事務職員が診断書などを記載したりすることなどが可能になりました。
 また、医師や看護師が不在の場合に、ヘルパーが役を果たさねばならない場面が多い在宅医療現場も変わってきました。05年には、それまで医行為に当たるとしてヘルパーが行えなかった体温や血圧の測定、服薬介助や湿布の塗布、爪切りなどが可能になりました。09年には、一部の特別養護老人ホームの職員に、口腔内のたん吸引や経管栄養の観察などが認められました。高齢社会の進展とともに、ヘルパーが行える医行為は今後も拡大が見込まれます。
 これに加えて、日本の薬剤師はOECD諸国の中でも比較的多く、スキルミックスの可能性が大いにあります。薬剤師は一般の医師や看護師より薬の知識がありますので、注射による投薬ができるようになれば、調剤から副作用チェックまで一貫して管理できます。薬剤師の専門性が生かされ、医師や看護師の負担も減ります。薬剤師の養成が4年制から6年制になったことや、今後見込まれるがん患者の増加などを考えても、薬剤師の活用は有効です。
 昨年、当時の舛添要一厚生労働大臣が中心になってまとめた「安心と希望の医療確保ビジョン」報告書でもスキルミックスは大きくうたれました。しかし、医師会や看護協会など業界団体の利権も絡み、一筋縄ではいきそうにもありません。 
 医療を業界団体や一部の権力者のためでなく、現場で働く医療者にとって、そして国民にとってより良いものにしていくため、こうした議論が今後どのように進んでいくか、注視していく必要があります。

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