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あるのに使えない1

グリベック
白血病の特効薬 一生続く高額負担

このコーナーでは、様々な原因で医薬品や医療機器のラグ・ギャップに悩む患者の方々に、どういうことで苦しんでいるのか、直接書いていただきます。

 先日、白血病の娘を持つ乳がんの母が無理心中を図るという、痛ましい事件が起きました。母娘の治療費負担に苦しみ、将来を悲観した末の惨劇。娘が服用していた薬は「グリベック」でした。
 皆さんは、「白血病」と聞いて、どのようなイメージをお持ちでしょうか。「長くは生きられない」「不治の病」――?
 確かに白血病は血液のがんで、完治には化学療法や骨髄移植など大変厳しい治療が必要で、道のりは非常に困難です。ただし「慢性骨髄性白血病」に関しては、特効薬が8年前に国内解禁となりました。それがグリベック。生き続ける道が、あるにはあるのです。
 「あるにはある」としたのには理由があります。
 この薬の効果は抜群です。一昨年の米国血液学会発表では、グリベックを飲み続けている患者の7年生存率は86%でした。対して、それまで標準治療だったインターフェロンαの7年生存率は36%。違いは一目瞭然です。副作用も軽く、多くの患者は普通の日常生活が送れます。
 しかし、飲んだからといって病とサヨナラできるわけではありません。飲むのをやめて再発した人も多くいます。生き続けるためには、飲み続けなければならないのです。
 そこで問題となるのが、経済負担です。グリベックは非常に高価なのです。1錠3100円で、通常は1日4錠服用します。自己負担を1~3割としても、年間の支払いは45~135万円にも上ります。これについて厚労省は「高額療養費還付制度」で対応してきました。例えば70歳以下で月収が53万円未満なら、毎月の負担上限額は4万4400円、年間で最高53万円になります。しかしこの制度、告知が不十分で、知らずにいる患者さんも少なくありません。
 そして何より、この53万円も、患者には決して小さい額ではないのです。想像してみてください。たとえ職を失っても、年金生活になっても、何があろうと生きている限りずっと支払いが続くのです。
 特に患者の多くは、働き盛りの年代です。子どももいる一家の大黒柱がある日突然に病を宣告され、思うように働けなくなってしまう。収入が減ったり安定しなくなったりする中で、生活、子育て、そして治療を維持していかねばなりません。若い患者さんでも、この「負の持参金」のために結婚を諦める人もいます。
 さらに追い討ちをかけたのが、近年の経済不況です。子育てを優先させるため、薬の中断を迫られる患者さんが後を絶ちません。家族のその後の生活費は保険金でカバーできる、そう見越して、「静かなる自殺」を選ぶのです。
 こうした問題は、グリベックに限ったことではありません。別の部位のがんはもちろん、他の疾病でも同じことです。優れた治療薬の出現で命を救われる一方、高額の治療費に悩み続ける人が増えています。がんだけでいっても、いまや2人に1人がかかる時代。ぜひ他人事ではないとご理解いただき、「金の切れ目が命の切れ目」という現状に少しでも問題意識をお持ちいただければ、と思うのです。

(全国骨髄バンク推進連絡協議会会長 大谷貴子)

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