『患者の経済負担を考える』
14日に国立がんセンター中央病院で開かれたがん患者3人による講演会の概要をお伝えする。会の趣旨を、土屋了介院長の挨拶から引用すると「がんの患者さんは、実は経済的な負担が大変だという。私たち医者も分かったようでいて、でも聴くとそうだったのかということがたくさんある。診察室ではこういう話を聴くことはないので、ウチの若いのにも聴いてもらおうと思ったのだが、ちょっと参加が少ないのが残念。逆に言うと、これが医療界の実態であるということで大いに反省しないといけない」。会場は3分の2ぐらいの入りだったのだが、どうもメディア関係の聴衆が多かったようだ。(川口恭)
トップバッターは、慢性骨髄性白血病の志村大輔さん。
「3年前34歳の時に慢性骨髄性白血病であることが会社の健診で分かった。薬を飲んで症状をコントロールできていて週末は趣味のフットサルをできている。でも最初はショックで心療内科に通っていたこともあるし、周囲にも病気のことを隠していた。半年前に同じ病気の人の書いた人の本に出会って、それを読んでから病気に向き合えるようになった。その人は大谷貴子さんといって、症状がとても悪かったのだけれどたまたまお母さんとHLA型が一致して移植を受けられたので生還した。その後、日本で最初の骨髄バンクも作った。その人が本の中でボランティア活動を呼びかけていたので、今は『公的骨髄バンクを支援する東京の会』の手伝いをしている。
ちょっと本題とずれるのだけれど、この東京の会で出している会報について、骨髄バンクの元理事から名誉毀損で訴えられている。この元理事は、いわゆる厚生省の天下り。訴訟のせいで本来の活動に支障が出て困っている。ネットなどで『骨髄バンク』『裁判』と調べていただくと出てくるので、見てみてほしい。
話を本題に戻すと、今私が飲んでいるのはスイスのノバルティス社が出しているグリベックという薬。とてもよく効くのと、治るわけではないけれど症状を抑えられるのと、副作用が軽い。最初に診断された時も、お医者さんは『大丈夫。今はいい薬があるから』と言ってくれた。もし病気になるのが10年早かったら今のような生活はできただろうかと思うし、20年前なら骨髄バンクも臍帯血バンクもなかったから生きていられるかも分からない、そう思うとありがたいばかり、医学の進歩には本当に感謝したい。
このように非常にありがたい薬なんだけれど、経済的な負担は結構大変。1錠3100円でふつうは1日4錠飲む。3割自己負担として約12万円。高額療養費制度というのがあって簡単に言うと1カ月に4万5千円を超えた分の医療費は戻ってくる。とても助かっている。病状にもよるけれど2カ月分をまとめて処方してもらっている人も多い。その場合の負担は4万5千円を2で割れる。それから加入している健保組合にもよるけれど、私の組合は2万円を超えた分は給付されるので、そうすると実質的には毎月1万円で済んでいる。大変にありがたい。しかし、病状によっては毎月処方を受ける必要もあるし、自営業の方が加入している国保だと上乗せの給付はない。だからそういう人は年間54万円が薬代になる。私なら、この金額は年収の10%を超えるので今と同じような生活はできないだろうなと思う。実際、患者さんの中には、安い薬に切り替えたら症状が悪化してしまった人がいる。せっかくのグリベックも、慢性期、移行期、急性期の移行期に入ってしまったら効きが悪くなる。私も、検査の時は毎回移行期に入ってないことを祈っている。グリベックが効かなくなった人には、同じくノバルティスから出ているパシグナという薬があるのだけれど、これは新薬なので半月処方しかできない。経済的な問題は同様だ。