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がん⑧ 放射線治療なぜ効くのか


切らずに済んで、副作用も最小限

 放射線治療は、基本的には、固形がんを「切らずに壊す」もの。切らずに済むのが最大のメリットで、がんの状態等によっては根治治療の重要な選択肢にもなっています。頭や首などのがんでは、しばしば第一選択肢にも。
 さらには、がんを小さくして症状の緩和を目指す緩和治療に用いられたり、外科手術、薬物療法(化学療法、ホルモン療法、分子標的薬)などと組み合わされることも増えています。例えば、放射線が効きにくいとされてきた腺がん(消化液などの体液を分泌する腺の細胞のがん)でも、このタイプの下部直腸がんに抗がん剤と併用する化学放射線治療が術前治療として導入されてきています。
 放射線治療は、全身への影響が小さく、高齢者や全身状態が悪化した患者さんでも負担が少なくて済みます。入院を必要としない場合が多く、通院でよいのでQOL(生活の質)が維持しやすいのも魅力です。
 気になる副作用ですが、基本的に照射された領域にしか生じません。ただ、それでも照射部位の皮膚に腫れや発疹、脱毛が見られたり、場合によっては吐き気や眠気等の症状が出ることもあります。さらに、治療から半年~数年して現れる「晩発性放射線有害事象」や稀ながら、白血病を始めとする2次がんなど、命に関わるケースもあります。
 そうした副作用を考えても、必要以上の範囲への照射は避けたいところ。要は、がん細胞のみにピンポイントで照射できればいいですよね。ところが、従来の放射線治療では、体の前後からX線でがんを挟み打ちにすることが多かったため、病巣に照射するには確実でも、同時に多くの正常組織にも照射してしまいます。それで副作用が生じたり、十分な線量をかけられずに治療効果があまり上がらなかったりでした。
 近年、この問題を解決する技術が確立されてきています。

定位放射線治療で治療効果アップ

74-1.2.JPG その先駆けが、定位放射線治療(SRT)です。SRTは、複数の異なる角度からがん病巣部位へ集中して放射線を照射することで、正常細胞へのダメージを分散しつつ、小さな病巣により多くの線量をかけるもの。最も普及しているリニアックで施術が可能ですが、専用機としては、ガンマナイフやサイバーナイフがあります。
 ガンマナイフは、半球状に並んだ200個以上の線源からガンマ線を、脳腫瘍病巣に向けて集中照射する装置。主に転移性脳腫瘍に効果を発揮します。ガンマ線は、電子を操作してゼロから作り出すのではなく、線源となる放射性同位元素(RI)から自然に放出される放射線を利用します。RIは、「構造的に不安定な状態にあるために、時間とともに自然に放射線を放出しながら壊れ、他の原子核に変わっていく元素」の総称。ですからRIには放射線を出す能力、つまり「放射能」がある、と表現されます。一般に「放射性物質」と呼ばれるのもこれです(詳しくは5月号でおさらいを)。個々のガンマ線は細く弱いので副作用も少なく、一方、病巣では集まって大きな線量となり、高い治療効果が得られます。ナイフで切り取ったように病巣を破壊できることから、ガンマナイフの名がつきました。
 ただ、患者さんの体が動いて誤った位置へ照射するのを防ぐため、ヘルメット型の金属製の枠を頭蓋骨に取り付けて頭を固定する必要があり、治療範囲にも限界があります。
 そこで、この不都合を解消し、さらに体幹部の定位照射用に進化させた装置がサイバーナイフです。
 サイバーナイフは、超小型X線装置にコンピューター制御の高精度ロボットアームを組み合わせたもの。自由な位置と角度から弱いX線を何本も病巣の一点に集中して照射します。
 位置の確認にメッシュ状のマスクを着けますが、ガンマナイフのようにがっちりと頭や体を固定しなくても大丈夫。巡航ミサイルのように正確な位置追跡技術で、患者さんが多少動いても的確に放射線を照射できる仕組みなのです。

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