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がん⑨ がんワクチンなぜ効くのか

今後の課題と次なるワクチン。

 今回取り上げたがんペプチドワクチン療法、樹状細胞ワクチン療法、どちらもまだ臨床試験段階で健康保険の適用外ながら、日進月歩で研究が進んでいます。従来の抗がん剤のような副作用もほとんどなく、入院も不要で、実用化すれば多くの患者さんがQOLを大きく損なわずに治療を受けられるようになります。
 とはいえまだ発展途上の治療法ですから、課題が多く残されているのも事実。
 ペプチドワクチン療法は、人工抗原を皮下に注射するだけで済み、手技が簡単で費用低減も期待できます。ただ先述の通り、体内に入ってから実際、樹状細胞にうまく処理されるとは限りません。
 他方、樹状細胞ワクチン療法は、あらかじめ樹状細胞に抗原材料を乗せてから投与されるので、理論上はより効率的なはず。しかし、特殊な培養施設や熟練した培養技術が必要で、実施機関もごくわずかです。
 何より、どちらのワクチン療法も、その費用負担が問題になっています。たしかに、ペプチドワクチンの一部は「高度医療」認定され、公的医療保険の併用が可能になっています。しかし、医療機関によっては「自由診療」の名の下、高額な料金で実施していることも少なくないのです。1回に数万~十数万円も普通で、保険は使えないので総費用が100万円を超えることも珍しくないようです。
 のみならず、万が一に薬害が起こったとしても、薬事法に基づいて承認されているわけではなく、被害者救済制度も利用できません。
 いずれにしても、どのワクチン療法がどういうがんのどんな段階で有効に働くのかなどは、今後の臨床試験の結果を待つことになります。現在、臨床試験の対象となっているがんは、10種類以上。いやがうえにも期待が膨らみますが、実際に臨床試験に参加したいとお考えの方は、くれぐれも慎重に検討されることをお勧めします。

消える標的分子 次なる手は?

 最後に、まだ少し先の話になりますが、研究が進んでいるのでご紹介します。これまで見てきたがんペプチドワクチン療法や樹状細胞ワクチン療法は、「がんに特異的に発現しているタンパク質」が標的でした。次なるがんワクチンは、「がんの増殖に必須な分子由来のがん抗原」を標的としたものかもしれません。
 がん特異的なタンパク質と一口に言っても、実際にはさらに2通りに分けられます。
●がんになった結果として現れてきただけで、がんの増殖に必須ではない分子
●がんの増殖に必須の分子
 従来のがんワクチンは、この両者を区別せずに開発が進められてきました。しかし、がん特異的タンパク質は変異によって発現が低下し、傷害性T細胞の攻撃を逃れてしまうことがあり、それをコントロールするのは困難です。前者を狙ったがんワクチンだと、その場合、目印を失うことになります。一方、後者の「がんの増殖に必須な分子(由来のがん抗原)」を標的としたワクチンの場合、発現しなければがんも増殖できずに自滅してしまいますし、発現すれば細胞傷害性T細胞にやられることになります。
 このように、がん細胞から標的分子が消えて細胞傷害性T細胞による治療効果が発揮できない事態がありえる、という従来のがんワクチン療法の短所を補う方法として、「がんの増殖に必須な分子由来のがん抗原」が注目されているのです。
 そして実は、先にご紹介したエルパモチドも、同じく従来のがんワクチンの短所を補うことが可能です。というのも、がんそのものではなく、がんに栄養を供給するのに欠かせない新生血管に特異的なタンパク質を標的としたペプチドワクチンなのです。新生血管に対する強い免疫反応を誘導して、がんの増殖を妨げます。これならば、がん自体に変異が生じても標的が失われることはありません。
 がんワクチン療法は今も大きく発展を続けています。外科手術、薬物療法(抗がん剤・分子標的薬)、放射線療法に次ぐ第4の治療法として、これからますます期待がかかりそうです。

がんワクチンは効かない? 「がんワクチンは効かない」という話を耳にしたことがあるでしょうか。だとすれば、それはおそらく2004年に、がん免疫療法の世界的権威であるスティーブン・ローゼンバーグ氏(米国国立がん研究所所長)が、がんワクチンでがんが小さくなる患者さんの割合は、ペプチドワクチン2%、樹状細胞ワクチン9%と発表したことから出てきたものと思われます。▽しかし、それまでの治療対象は、あらゆる標準治療が効かなくなった進行がんでした。その後の研究で、治療開始前に白血球中のリンパ球の割合が大きい症例ほど生存期間が長いことが明らかになっています。リンパ球は免疫応答の主役といっても過言ではありません。そこで現在では、強い抗がん剤治療の副作用でリンパ球を作り出す骨髄がボロボロになる前から、がんワクチン療法を取り入れるよう考え方が変わってきています。
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