認知症を知る2 アルツハイマー型
行動・心理症状に対する治療法は極めて複雑かつ繊細なので別の機会にじっくりご紹介するとして、今回は認知機能障害に対する治療法を示します。
脳細胞の死滅を食い止めたり、復活させたりすることができれば根本的な治療法となります。しかし残念ながら、そのような方法はまだ見つかっていません。
よって現段階では、2系統の薬を使って認知機能改善をめざす対症治療が行われています。
最初の系統は、前項でもご紹介したコリンエステラーゼ阻害薬です。
塩酸ドネペジル(商品名アリセプト)、ガランタミン(商品名レミニール)、リバスチグミン(商品名イクセロンパッチ、リバスタッチパッチ)の三つの薬剤が承認されています。
これらは、減った神経伝達物質の分解を妨害することで神経伝達を補い、シャッキリさせます。認知機能低下の進行を若干遅らせることができます。ガランタミンには、他の神経伝達物質であるニコチンの受容体を刺激する作用もあり、理論上はダブルでシャッキリするはずなのですが、臨床上の効果は他の薬と大差ないようです。
飲み薬である前2種類に対して、リバスチグミンは商品名からも想像がつくように貼り薬として用います(日本の場合)。薬を飲むということ自体、認知症の人には大変な場合があるので、服薬管理できない人には向いているかもしれません。
コリンエステラーゼ阻害薬の主な副作用は、食欲不振、吐き気、嘔吐など消化器系の症状で、一部の人に徐脈など循環器の異常が出ることもあります。
もう一つの系統は、グルタミン酸拮抗薬の、メマンチン(商品名メマリー)という薬剤です。
前項では触れませんでしたが、アルツハイマー型認知症では、アセチルコリンの低下と逆に、他の神経伝達物質であるグルタミン酸の濃度は上がっていることが分かっています。そのグルタミン酸が受容体を過剰に刺激することによって、神経細胞や認知機能に障害が起きているのでないかとの「グルタミン酸仮説」から生まれた薬がメマンチンです。
ドネペジルなどのコリンエステラーゼ阻害薬との併用で用いられることもあります。主な副作用は、めまいです。
早期介入の試み
ここまで読んできて、アミロイド仮説やタウ仮説に基づく治療薬はないのかと疑問に思われたかもしれません。実は製薬各社がそれらの開発にしのぎを削っています。
一般に、理論が生まれてから薬が誕生するまでに20年ほどかかるため、その時間的な観点から言うと、間もなく出てきてもおかしくありません。そして、出てくる薬は細胞の死滅を食い止め、認知症の発症や進行を遅くするような働きも持っているのでないかと期待されます。
それらの薬の恩恵に浴するためにも、軽度認知障害など脳病変が軽い早い段階から、医療の力を借りて時間を稼ぐことが望まれるのです。