がん医療を拓く⑤ 転移を封じる
がんが転移せず1カ所に留まっていてくれるなら、手術や放射線照射、はたまた化学療法を行って、たとえ根治しなくても、共存しながら長く生きることを望めます。
そこで、がん研究会がん化学療法センター基礎研究部では、藤田直也部長を筆頭に、がんの転移を妨害する薬剤の開発に力を注いでいます。
血小板がカギ
そもそも転移は、図のような複数の段階を経て生じます。
①成長した原発巣から、がん細胞が周囲の正常組織へじわじわ浸み込むように広がる(浸潤)
②血管内に浸入する
③血流に乗って移動し、別の臓器の血管内で止まる
④血管の外へ脱出する
⑤移動先の臓器へ浸潤、定着する
といっても、血管の中へ入ったがん細胞すべてが転移するわけではありません。
藤田部長いわく、「血管内は、血流によって細胞に高い圧力がかかります。また免疫細胞も多数存在して異物を排除するので、がん細胞が入ったとしても、24時間後には0.1%以下しか生き残らないと言われています」。
ところが血液の中には、高圧や免疫細胞から鎧のようにがん細胞を守ってしまう存在もあるのです。
それが、血小板。
「切り傷等ができた時に血液を固まらせ、"かさぶた"を作るもの」と中学校の理科で習いました。どちらかと言えば善玉のイメージが強い血小板に、そのような顔があるとはビックリですよね。
「血小板に覆われたがん細胞は変形しなくなるだけでなく、くっつきあって大きな塊となり、細い毛細血管などに引っ掛かって止まります。そうして止まったところから血管外に脱出、浸潤して、転移巣を形成することも観察できています」(藤田部長)。
血小板には、がん細胞を守るだけでなく転移先臓器の血管内にがん細胞を止める役割も果たしているのです。転移するかどうかは、がん細胞が血小板の鎧をまとうか否かにかかっていると言うこともできます。