がん低侵襲治療⑦ 肝臓がん
切るか焼くか選ぶポイント
前項だけ読むと、ラジオ波焼灼術が最も体への負担が少なく、理想的低侵襲治療に思えたかもしれませんが、ちょっと違います。
まず、現時点では、ラジオ波焼灼術後の再発リスクは、手術後より高いと考えられています。
「どの程度の大きさまでなら手術と同様の成績を出せるのか、まだ全国で臨床試験を行っている最中で、結論が出るまで早くても10年はかかるでしょう」と齋浦部長。
肝細胞がんの再発率は年に15~20%、5年再発率は約8割と、非常に高いのです。
「肝臓に入り込んでいる血管を木の幹と枝葉に例えると、肝臓がんは、幹に沿って枝葉の部分に転移していきます。手術の場合は『系統的肝切除』(図2)と言って、幹の根元から枝葉ごと落すように切り取ることで、再発リスクを低減できるのです」
また、肝切除すれば採った組織を顕微鏡で見て、がんの性質や取りこぼしがないかチェックできますが、ラジオ波焼灼術では組織を得られませんし、取り残しがないかどうかもCTなど画像で判断するしかありません。
1回目はラジオ波焼灼術を選び、再発してから手術するというのは、どうでしょう。
「一度焼いてしまったことで、切除範囲が非常に大きくなります。切れるなら切り取ってしまうのが色々な意味で確実性が高いと思います。ですからまずは肝切除を検討します」
がん背景の変化
だったらなぜラジオ波焼灼術などというものがあるのか、と思った方もいそうですね。
かつてウイルス性肝炎から肝硬変を経て、肝臓がんを発症する人がほとんどでした。
ある程度の年月を経てから発症しているので、当然に高齢です。また、肝硬変は、肝炎が慢性化して肝細胞が死滅・減少し、肝臓全体が硬くスカスカになってしまった状態で、肝機能は著しく低下しています。
最初から患者の体力がないのに、肝臓をさらに手術で小さくしてしまうと、生命を維持するのに十分な肝機能が残りません。そこで編み出されたのが、切らずに治療できるラジオ波焼灼術だったわけです。
「ラジオ波焼灼術は体には優しい治療法ですから、根治性が多少落ちてもトータルでメリットのある治療です。手術に耐えられないような高齢や肝硬変の患者さんなど、適応を選べば非常に良い治療と言えるでしょう」
しかし肝臓がんの背景は大きく変わりました。
「C型肝炎はインターフェロン、B型肝炎は抗ウイルス薬の登場で、進行を抑えることが可能になったためです。その代わり若い層を中心に、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)などメタボ関連疾患から肝臓がんを発症するケースが増加しています」
メタボ疾患由来の肝臓がんの場合、肝機能が比較的良好に保たれていることもよくあります。そのため肝切除が可能ということになります。