がん低侵襲治療⑦ 肝臓がん
沈黙の臓器とも言われる肝臓。かなりがんが進行してから発見されることも多く、低侵襲化も一筋縄ではいかないようです。がん研有明病院消化器外科の齋浦明夫・肝胆膵担当部長に、治療方針の基本からお話をうかいました。
「一口に肝臓がんと言っても、元になっている細胞によって性格が異なり、それぞれ治療方針も大きく違ってきます」と齋浦部長。
まず、肝臓の細胞ががん化してできる「原発性」肝臓がんと、他の臓器からがん細胞が転移してきて肝臓で発育してできる「転移性」肝臓がんがあります。原発性肝臓がんはさらに、がん化した細胞の違いによって「肝細胞がん」と「胆管細胞がん」に分けられます。
今回は、原発性肝臓がんで発見されるものの95%を占める肝細胞がんの治療について、ご説明します。
開腹か腹腔鏡か
がん研有明病院でも基本的には診療ガイドラインに沿って、治療方法・方針を決定します(図1)。齋浦部長によれば、「腫瘍の数が3個以下で大きさが3cm以上なら、まず開腹手術が選択されます」。
お腹を20~30cmほど開き、2週間ほど入院が必要です。
胃がん(2012年5月号)や大腸がん(2013年1月号)の際に出てきた腹腔鏡手術は、肝臓がんにも使えます。5mm~1cm程度の穴を3カ所空けるだけなので回復が早く、入院も1週間ほどで済みます。
「肝臓は手術時の出血量が多いため、導入が遅れていました。しかし切断と止血を同時に行えるような手術器具が開発されたことで可能になり、2010年からは保険も適用されています」
保険が適用されるのは、比較的簡単な肝切除に限定されています。将来的に器具や技術がより発展すれば、さらに適用が広がっていく可能性は十分にあるそうです。
ラジオ波焼灼
腫瘍の数が3個以下で直径3cm未満の場合は、切除手術以外にラジオ波焼灼術も候補となります。
皮膚の上から電極針を腫瘍内に挿入し、ラジオ波と呼ばれる電流で加熱して焼き、がんを壊死させる治療法です。局所麻酔で済み、施術中も医師と会話できるほど低侵襲です。翌日から食事もできます。入院も短くすることが可能ですが、がん研有明病院では事後チェックまで含めて1週間かけるそうです。
腫瘍が4個以上ある場合は、すべて切除すると肝機能が十分に残らない可能性も高いため、肝動脈塞栓療法が中心となります。がんに栄養している動脈にカテーテルで抗がん剤と塞栓剤を注入し、肝臓内のがんを兵糧攻めにする治療法です。
転移がんの場合肝臓は、がんの転移も多い臓器です。多くの転移性肝がんは全身にばら撒かれた細胞の一部が肝臓に定着したものと言えます。全身治療である化学療法が第一選択になってきます。
しかし、大腸がんからの転移は例外です。肝転移は大腸がんの転移の中で最も多く、他の部位からの転移と異なり、多臓器への転移が比較的少ないのが特徴です。そのため、切除可能である場合が多いです。原発性肝がんと比べて、硬くて悪性度も高いのでラジオ波ではうまく焼くことができません。手術できるのであれば、手術をお勧めします。