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がん医療を拓く⑬ 難治の進行膵臓がん 医師主導治験始まる


サバイビンは幹細胞にも発現

 特筆すべきは、サバイビンが「がん幹細胞」にも発現していると分かっており、サバイビン2Bが、がん幹細胞も制御できる可能性を持っていることです。膵臓がんのペプチドワクチンは、世界中で多くの種類が開発されていますが、「幹細胞にも発現している抗原を標的とするものは、現在のところサバイビン2Bしか報告がありません」と鳥越准教授は説明します。

 がん幹細胞とは何でしょうか。

 私たちの体には、幹細胞というものが存在していて、分裂して自分と同じ細胞を作り出す自己複製能と、他の様々な細胞への多分化能を併せ持っています。普段は休眠状態にありますが、ケガから回復する際など必要があると眠りから覚めて猛烈に増殖します。がんにも同様の性質を持つ細胞が存在することが、近年明らかになってきました。

 鳥越准教授は、「通常のがん細胞が働き蜂なら、がん幹細胞は女王蜂」と例えます。がん幹細胞は、がん細胞全体のうちわずか1%とも言われますが、厄介なのは通常の幹細胞同様に分裂周期が遅く、分裂期に効果が出る抗がん剤や放射線照射はあまり効かないことです。「生き残った女王蜂がまた巣を作れば再発ですし、遠くの臓器へ飛んで行って巣を作れば転移ということになります」

 膵臓がんが難治なのも、幹細胞の存在を前提にすると、よく説明がつきます。今回の治験で、がん幹細胞を果たして制御できるのか、注目が集まっています。
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参加には条件

 今回の治験では、被験者は、本人にも担当医師にも分からないように3グループに割り振られます。サバイビン2Bとインターフェロンβの併用群、サバイビン2Bの単独投与群、そしてプラセボ(偽薬)群です。札幌医大の臨床試験で、ペプチドとインターフェロンの併用は、ペプチド単独より腫瘍抑制効果が高い傾向にありました。

 治験に参加するには、いくつかの条件を満たす必要があります。詳細は、次頁をご参照ください。

 特に重要なのは、HLAの型です。「白血球の型が合ったから骨髄移植できた」などという話を聞いたことがあるかもしれません。それと同じものです。

 樹状細胞が抗原を結合させるHLAは、遺伝子によって型が決まっています。ペプチドワクチン療法では、この型が合わないと、抗原提示されません。サバイビン2BはA24型のHLAの人にしか効果を期待できないのです。ただし治験責任医師である東大医科研病院の釣田義一郎講師によれば、「日本人の6割はA24型を持っているとされている」そうです。(コラム参照)

医師主導治験になった理由

 今回の治験は、製薬企業ではなく、医師が企画・立案し、治験計画届を厚労省に提出して行う医師主導治験です。2003年の薬事法改正で可能になりました。
 製薬企業主導で行われてきた従来型の治験は、患者数が少なくて採算が取れそうもなかったり、リスク面で懸念があったりすると、有望そうなタネでも開発を見送られてしまうことが多々ありました。その隙間を埋めようとするのが医師主導治験です。
 今回、製薬企業が第2相から試験を行わなかったのも、世界的に見るとA24型を持っている人は多くないため、開発のリスクに見合うほどは市場が大きくないと見られたためだそうです。


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