がん医療を拓く⑮ 口内をケアして治療効果アップ
そして口腔ケアと医科歯科連携へ
こうした合併症の対策として口腔ケアにいち早く目をつけたのが、静岡県立静岡がんセンターでした。2002年の設立当初から歯科口腔外科の主導で、支持療法としての口腔ケアを全国に先駆け本格的に推進。がん治療前から、歯科治療のみならず歯石除去やブラッシング指導など口内の衛生状態の改善を図り、術後も口腔ケアを実施しました。
その結果、口内の炎症が治まると全身状態も良好に保たれ、頭頸部がんの術後の経過が、口腔ケアを行わなかった場合と比べて明らかに改善したのです。感染や傷口が開くなどのトラブルが4分の1に減りました。食道がんでも、術後の肺炎が大幅に減少しました。
その後も各所から、口腔ケアのがん合併症予防効果を示す報告が相次いでいます。頭頸部がんの再建手術で傷口の合併症率がほぼ半減、特に感染が10分の1へと激減したケースもあります。食道がんや口腔がんの術後肺炎の予防も、各地の医療機関で成果を上げてきました。
白血病などの血液腫瘍でも、治療に有効な薬剤が口内炎を高頻度で引き起こしてしまいます。岡山大学とその附属病院が05年から06年にかけて、造血幹細胞移植患者を対象に口腔ケアを実施したところ、約8割に見られた口内炎が2割に減少しました。
開業歯科医と連携
「総合病院で歯科が併設されていないところと、地域歯科医師会などとの医科歯科連携をどう構築するかが問題になっています。静岡がんセンターと地域歯科医師会の取り組みが先駆的ですね」(富塚部長)
口腔ケアの効果が数字として現れてくる中、静岡がんセンターは06年に「がん患者医科歯科連携事業」を立ち上げます。地域の歯科医療機関と連携し、がん治療前から治療後まで包括的な口腔ケアを推進。さらには医療機関の研修も行ってきました。
この取り組みが高く評価され、10年には日本歯科医師会が先頭に立った医科歯科連携のモデル事業へとつながりました。関東5都県の歯科医師会に呼びかけ、支持療法や医科との連携に関する講習を開設。がん患者の受け入れ態勢の整った歯科医院のリストを国立がん研究センターと共有しました。
医療界や国もこうした動きを後押しします。12年4月の診療報酬改定で、がん医療に関して「周術期口腔機能管理」という保険診療項目が追加され、がん患者の口腔を守るための医科歯科連携に保険が利くようになりました。同年に政府が策定したがん対策推進基本計画(12-16年)にも、『医科歯科連携による口腔ケアの推進』が明記されました。
「当院では以前から院内の患者さんへの口腔ケアを行っていますが、13年からは歯科衛生士が食道がん治療チームの一員に加わるなど、院内での連携をより強化しました。遠方で通院が大変な患者さんの場合には、地元のかかりつけ歯科医院に協力をお願いすることもあります」と富塚部長。がん診療連携拠点病院を始め全国で、地域の歯科医院との連携が始まりつつあります。