「口から考える、認知症」 北海道でも開催しました。~ハート・リング通信㉞
ハート・リング運動専務理事 早田雅美
9月19日の敬老の日、京王プラザホテル札幌エミネンスホールで、フォーラム「口から考える、認知症」を北海道新聞社と共同開催しました。約500名の方がご参加くださいました。
フォーラムの前半、北海道砂川市立病院認知症疾患医療センターの内海久美子センター長が、介護殺人を扱った「あなたの周りにも困っている人はいませんか」という痛ましいビデオを紹介しました。
ご存じの方も多いかもしれませんが、2006年に起きた、献身的に介護をしていた男性による認知症の母の殺害事件を扱ったものです。
男性は、デイケアなどを利用して懸命に母を支えようとするものの、退職に追い込まれます。失業給付金を理由に生活保護は認められず、やがてカードローンも限度額を迎えます。「もう生きられん、ごめんな」という男性に母は「そうか一緒やで」と答えたと言います。最後の親孝行に、と車椅子の母を連れて京都市内を観光。小銭入れに残っていたわずかなお金でパンを買って2人で食べ、その後桂川河川敷の遊歩道で母と額を合わせて首を絞めて殺害、自身も手首を切りましたが、救助され一命をとりとめました。公判で「母を殺したがまた母の子に生まれたい」と言う男性に検察官は声を詰まらせ、裁判官も涙を抑えきれない様子で「日本の介護の在り方が裁かれている」「あなたは母の分まで幸せに生きてください」と語ったと言います。残念ながら男性は、釈放後に自ら命を絶ちました。
このビデオが紹介されるや、会場には来場者のすすり泣く声が多く聞こえ、「何とかしなくてはならない社会問題」という気持ちが共有されたように感じました。
なお、砂川市は、「ぽっけ」と名付けられた地域の有償ボランティアによる認知症支援活動で有名です。医療機関への付き添い、話し相手、訪問による認知症の方の様子の確認など、認知症の方を取り巻く生活の中で、必要でありながら、介護保険ではできないことをカバーする優れた取り組みです。内海センター長は認知症専門医として著名なだけでなく、そうした地域活動を長く主導してこられました。
北海道医療大学歯学部咬合再建補綴学講座の越野寿教授からは、脳の活性化と噛むことが大きく関わっているというお話がありました。
北海道大学病院歯科診療センター高齢者歯科の柏﨑晴彦講師からは、「認知症と歯科治療」と題して、認知症患者に対する歯科治療や口腔ケアが十分になされていない実態のご報告がありました。適切な歯科治療や口腔ケアは、誤嚥性肺炎を予防するなど、認知症の方の命をも守る重要なテーマであり、おいしく食べることの一助になると訴えられました。
ハート・リング運動では、このような「口から考える認知症」フォーラムを、今後も各地で実施していきたいと考えています。