誌面アーカイブ

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

神経痛 うーん、まいった!

39-1-1.JPG針で刺したような、焼けるような強い痛みをくりかえす神経痛。
精神的な苦痛も大きく、日常生活に支障が出ることも多いのだとか。

監修/越智隆弘 大阪警察病院院長
    嘉山孝正 山形大学医学部長

 いよいよ本格的にシーズン到来! といっても、うれしい話ではありません。神経痛を持病とする人には、今年も厳しい季節がやってきました。神経痛は、「末梢神経が刺激されておこる激痛発作」。症状の名前であって、病名ではありません。手足や関節の決まったところが痛んで、秋から冬にひどくなったり、患者が増えたりします。とはいえ経験のない人には、腰痛や肩こりとの違いが、いまいちピンと来ないでしょうか。詳しく見ていきましょう。

神経痛って、こういうもの

 何といっても特徴は、鋭く激しい痛み。刺すよう、ナイフで切られたよう、焼けるようと言う人もいます。それが突然、体の特定の部位に走るのです。継続するものもある一方、一瞬から数分の痛みがくりかえし現れる場合も。当初1日1回程度でしばらく続いた後、数カ月から数年間、嘘のように消えることもありますが、次第に発作の間隔が短くなり痛みも強まってきます。咳やくしゃみ、深呼吸程度の刺激で激痛が走ることも。
39-1.5.JPG そもそも末梢神経は、体の各部位に脳からの信号(指令)を伝えたり、逆に体からの信号(情報など)を脳に伝える電話線のような組織。手足、目や耳、皮膚から内臓まで全身に枝分かれして広がっています。つまり、体のいたるところに神経痛の可能性があるということ。発生部位で分類すると一覧ができるほどです(表)。ただ末梢神経は脊髄から左右対称に出ているため、顔にしても背中や手足でも、神経痛が出るのはたいがい左右どちらか一方です。
 気になるのは、神経痛をひきおこす原因。実はもともと、「原因不明の体の痛みを『神経痛』とくくって、とりあえず苦痛を和らげる治療を試行錯誤してきた」という経緯が神経痛にはあります。今では研究や検査技術も進んで原因が明らかになったものがだいぶ増え、それらは「症候性神経痛」と呼ばれるようになりました。何らかの病気(腫瘍、炎症、外傷、骨の変形など)が末梢神経を刺激して痛みがおきているものです。かたや今なお、検査しても原因がまったく見つからないケースもあり、「特発性神経痛」と区別されます。
 症候性神経痛と特発性神経痛に分類するのは、治療の方針が違うため。症候性の場合には、原因となる病気の根本的な治療をまず始め、痛みを抑える治療も並行して行います。特発性であれば、最初から痛みを取り除くための治療に入ります。ただし、原因となる病気が治っても神経痛が後遺症として残ってしまった場合には、特発性神経痛として扱われることになります。

「痛い」のしくみ。

 ここで、痛みが走るメカニズムを確認しましょう。先ほど末梢神経を電話線にたとえましたが、本物の電話線がビニールなど電気を通さない物質で覆われているように、神経も鞘に包まれています。しかし、その鞘が薄かったりなかったりする部分もあり、そこが炎症や外傷などで不用意に圧迫されたり刺激されたりすると、体は異常事態と判断して警笛信号を激しく脳に送るのです。これが、耐えがたい痛みの正体。痛む部位が決まっているのは、分かれた先の神経が支配する範囲に限られているためです。
 また、神経痛と判断する材料にもなるのが、痛みを誘発する「圧痛点」の存在。体のある点を触れたり押したり、またときに熱い・冷たいなどの刺激によっても、激烈な痛みを生じます。神経痛の発信源を含む末梢神経が、体の表面近くを走っているためです。
 たとえば顔に痛みが走る「三叉神経痛」では、圧痛点はくちびるの端、小鼻の横、鼻の下のみぞ、頬、歯ぐきや舌などにあります。胸や背中が痛む「肋間神経痛」では、背中の肋骨に沿ったところや腹筋の上に。おしりから足全体に痛みが出る「坐骨神経痛」では、腰を中心に上は胸、下はつま先までありえます。

医療機関での診断の流れ

 医療機関を受診すると、まず問診、視診、触診、そして各種検査を経て、ようやく診断という流れになります。
 触診は、患者の体の動きを観察する動的触診と、触って筋肉などの様子を見る静的触診があります。これらは、体をひねったり曲げたり、刺激したりして詳細に調べる整形外科学的検査や神経学的検査と並び、医師の熟練を要します。こうしたアナログ的な検査が、今なお非常に有用なのです。
 もちろん正確な診断のためには複数の検査を組み合わせて行うことが必要。最終的に、血液検査で感染症の有無を確認したり、レントゲンやMRI他の画像診断などによって裏づけを得ることは必須です。
 症候性神経痛の場合、これらの検査で痛みのほかにも、ふるえ、しびれ、筋肉の萎縮などの症状がみられることがあります。特発性神経痛の場合は、麻痺がないかどうかや筋肉の運動、反射といった末梢神経の機能を調べても、痛み以外の症状はみられません。
 また、どの部位でも水疱が出た後に痛みが消えないというかたちで引き起こされる神経痛があります。これはヘルペスウィルスによる帯状疱疹後神経痛と考えられます。大きな病院では
総合診療科も増えていますので、自分で判断する前にそちらで相談することをお勧めします。
 さて、体じゅうに危険が潜む神経痛、次頁からは先に挙げた代表的な3種類を、具体的に見ていきましょう。

肩こり・腰痛と神経痛  肩こりや腰痛と神経痛は、痛む部位が同じだったり、整形外科や整体、ひいては鍼灸など治療が同じだったりと、かなり共通点がみられます。でも、肩こりや腰痛は通常、筋肉の緊張からくる痛み。一方、神経痛は神経が刺激された痛み。性質がまったく違うのです。治療が一緒なのは、根本治療が難しく対症療法にならざるをえないことが多いからです(次項参照)。


顔に激痛! 三叉神経痛
39-1.6.JPG 長らく特発性神経痛の代表ともいわれてきた三叉神経痛。顔に激痛が走るものです。一般に「顔面神経痛」で知られますが、顔面神経は知覚でなく運動をつかさどっているので、この表現は不正確。患者は50~60代に多く、女性が男性の1.5倍~2倍にものぼります。
 三叉神経は、顔、口の中の粘膜、歯の感覚をひろってくる末梢神経(図)。顔の左右にそれぞれ3つに枝分かれして広がっています。神経痛はたいていその第2枝か第3枝に沿って起こります。右側が多く発生し、これは骨盤のゆがみのせいとも言われますが、定かではありません。
 三叉神経痛は、以前は原因がわからず特発性と診断されることがほとんどでした。今では技術も研究も進み、ほぼ症候性と診断されるようになりました。原因はずばり、動脈硬化などで蛇行した血管が三叉神経を圧迫するため。なかでも三叉神経が脳幹から出る部分には「鞘」がないため、刺激に敏感なのです。脳腫瘍により圧迫されることもありますが、ごく稀です。

受診から治療まで。手術が有効

 三叉神経痛の場合、クーラーの冷気が顔に当たっただけで痛い、目を動かしたり何かにちょっとつまづいただけで顔が痛む、女性の場合はお化粧もできない、といった普通では考えられない状況から「神経痛では」と思いあたることも多いようです。その場合は明らかに、脳神経外科や神経内科へ直行となります。
 やっかいなのは、歯磨きや飲食で歯や歯ぐきが痛む、あるいは高い声が響いて痛いなど、歯科や耳鼻科の疾患との区別がつきにくい場合。「歯が痛んでどうしようもないので抜歯してしまった」というトラブルも後を絶ちません。
 医療機関で三叉神経痛の診断を行うにあたっては、症状の経過の詳しい問診がもっとも大切。典型的な症例の場合、痛む部位や痛みの種類、痛むタイミングや状況、痛み出した時期、痛み以外の症状や持病などまで、患者側からはっきり伝えられれば、慣れた医師ならかなり診断の見当がつきます。もちろん綿密な検査も行われます。
 根本的治療は、手術です。圧迫している血管を三叉神経からはずすもので、熟練した医師がきちんと行えば、改善率は9割以上。再発も防げます。
 ただし部位が部位だけに一定のリスクもあり、希望によっては対症療法がとられます。主に抗けいれん薬を用いた薬物療法が一般的です。他にも、神経に薬液を注入して痛みを麻痺させる神経ブロックや、患部に放射線を照射するガンマナイフも効果が報告されています。前者は1回やれば1年以上の効果が続くと期待できるものの、かなり高価で、顔面にこわばりが残るなどの問題もあります。後者も副作用が不明です。
 どの治療法にするかは、主治医と相談して発作の頻度や年齢、体調などを考慮し、慎重に決めていってください。

胸や背中、足が痛いなら。

 根本的な疾患が別にある症候性神経痛の代表は、肋間神経痛と坐骨神経痛です。
 肋間神経痛は、背中や胸の激しい痛みが特徴。肋間神経は背骨(脊髄)から出て、文字通り肋骨の間を走っており、多くはそのどこかに発生します。ただし胸や腹部にも広がっていて、胸が痛んで狭心症などの心臓病かと青くなったり、わき腹に出て別の病気を心配したりと、不安になりやすい疾患です。
 原因はやはり神経の外からの圧迫。椎間板ヘルニアや、筋肉や骨の腫瘍、内出血のかたまりのほか、高齢者は背骨の圧迫骨折も引きがねに。
 症状としては、まず背中の痛みとして感じる人が多く、体をひねったり、痛みのないほうに体を曲げて肋間神経を伸ばすと、刺すように痛みます。また、背骨をたたくと痛みが肋骨あたりに響きます。
 通常は整形外科を受診すれば、ひととおりの検査が可能です。ただ外傷や思い当たるきっかけもなく動かさなくても痛いなら、感染症など内科的な疾患の疑いもあります。胸がしめつけられる感じや息苦さがある場合は、呼吸器疾患や狭心症などの循環器疾患の可能性も。さらにストレスも原因となるため、心療内科や精神科も検討の余地があります。
 坐骨神経痛は、「坐骨」と名前がついていますが、坐骨神経の通っているおしりから太もも・ひざの後ろ、すねの外側、足首まで、足全体が範囲。やはり多くは片足のみで、体の屈伸により強まります。ひどいときは歩くのも困難に。
 主な原因は年齢によって異なり、若い人はさほど患者も多くないのですが、腰椎間板ヘルニアなどがもとになることが多いようです。一方、高齢者では老化で腰の骨が変形する疾患に多く見られます。このほか脊髄や骨盤の中にできた腫瘍から発症することも。麻痺や脱力などがある場合は、脳疾患も考慮しなければなりません。

人によっては一生の付き合いも

 肋間神経痛はいったん発症すると完治は難しく、一生涯つきあっていく人がほとんどと言われます。坐骨神経痛も、原因となる病気の完治が難しければ同じことです。
 その場合は病院での治療も、現状より悪化しないよう手を打つ保存療法(対症療法)が中心になります。痛み止めの内服薬や筋弛緩剤、座薬などの薬物療法、ホットパックなどの温熱療法、牽引治療などの理学療法、神経ブロック注射などが行われます。場合によっては手術も考えられますが、一度で完治しないのであれば、主治医と十分に相談を重ねてください。
 以上、詳しく見てきた3種類に限らず、神経痛を放置しても命の危険はありません。それでも人によっては強い痛みとの長いつきあいになり、精神的な苦痛も大きいもの。うつ状態になる人も珍しくないようです。耐えがたい痛みはぜひ、的確な治療による一刻も早い改善をお勧めします。また、毎日の生活では、心身ともにリラックスすることが大切。入浴、栄養バランスのとれた食事、十分な睡眠を心がけましょう。

  • 協和発酵キリン
  • 有機野菜の宅配ならナチュラルファーム
  • ヒメナオンラインショッピング「アルコール感受性遺伝子検査キット」
  • 国内航空券JDA
  • これまでの「ロハス・メディカル」の特集すべて読めます! 誌面アーカイブ
  • 「行列のできる審議会」10月20日発売 関連書籍のご案内
  • ロハス・メディカルはこちらでお手に取れます 配置病院のご案内
サイト内検索
掲載号別アーカイブ