検査の現場から9
動脈硬化の検査法、"頸動脈エコー"と"脈波伝播速度"
東京大学附属病院検査部
海老原 文
一般に、ヒトの血管は年齢を重ねると硬くなってきて、弾力が失われます。動脈硬化と言われる現象で、心筋梗塞や脳卒中の原因となります。動脈硬化の検査法には色々ありますが、患者さんに与える苦痛が少なく、比較的簡便に行えるのは、"頸動脈エコー"と"脈波伝播速度"の検査です。
まず"頸動脈エコー"についてお話します。
頸動脈は、脳に血液を送る重要な血管で、首の左右両側にあります。これは比較的太い血管で体表面近いところを走っていることから、エコー(超音波)で観察しやすく、実際に動脈硬化が起こっているかどうかをよく見ることができます。
動脈硬化が起こってくると、血管の内側(血液が流れている側)を覆っている内膜とその外側の中膜の部分が厚くなってきます。また血管内腔に突出した病変(プラークと呼ばれます)が見つかることもあります。このプラークは高血圧、糖尿病、高脂血症などの"動脈硬化の危険因子"を持っていると見つかる頻度が高くなります。
次にもう一つの動脈硬化の検査法である"脈波伝播速度"の検査法についてお話しします。
これが最もよく行われているのは"上腕動脈・足首動脈間"です。両側の上腕と足首に血圧測定用のカフを巻き、それぞれの部位の血圧と脈波を測定します。腕や下肢の動脈のどこかに狭窄があると、血圧に差が生じます。また、脈波によって心臓から押し出された血液がそこの血管に到達するまでの時間が分かります。この脈波速度は動脈硬化が強いほど短くなります。しかし血管に強い狭窄があると、その末梢へ伝わる時間が、かえって長くなります。
高血圧、高脂血症、糖尿病、肥満、喫煙歴、心疾患の家族歴などの危険因子を持つ方の動脈硬化の程度を知ることは非常に重要ですが、また難しいことでもあります。ここに紹介した二つの方法は、患者さんの負担が比較的少なく、繰り返し実施できますので、しばしば行われています。