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メタボリックシンドロームお前は何者?

内臓脂肪って一体何なの?

 さてメタボリックシンドロームへの恐怖心が取れたところで、次は、原因とされる「内臓脂肪蓄積」が一体どういう状態なのか、見ていきましょう。
 単に「脂肪」と呼ぶと、三大栄養素の一つなのか、体の組織なのか区別がつきません。少し乱暴に言ってしまえば、「栄養素としての脂肪」を蓄えた細胞群が「組織としての脂肪」になります。混乱を避けるために、今回の特集の中では、「脂肪組織」とか「脂肪細胞」といった言葉を用います。
 皆さん、肉の脂身などで日常的に脂肪組織を目にしていますよね。でも、単なる油の塊で、少なければ少ないほどよいもの程度にしか認識していないのではありませんか? 
 実像は大違い。様々な場面で役立っています。
 以前から知られていたのは、エネルギーの貯蔵庫の役割で、脂肪組織にエネルギーを備蓄することができたからこそ、人類が絶滅しなかったと言っても過言ではありません。防寒や骨・内蔵を保護する役割もあります。
 そして、脂肪組織には、溜まりにくい代わりに減らすのも簡単でない皮下脂肪と、溜まりやすく減らしやすい内臓脂肪とがある、というのも聞いたことがあるでしょう。よく例えられるのが、皮下脂肪は定期預金で、内臓脂肪は普通預金というものです。
 これらはどれも正しいのですが、一つの側面を表しているに過ぎず、脂肪組織にはもっと驚くべき役割のあることが、近年の研究で分かってきました。
 実は脂肪細胞は、ホルモンなど体の働きを制御する様々な生理活性物質を分泌しているのです。ピンと来ないでしょうか。要するに、脂肪組織は単なる肉の塊ではなく、働きを持った臓器だということです。(一部に発熱する脂肪組織もあります=コラム参照)
 脂肪組織が分泌する様々な生理活性物質を総称して「アディポサイトカイン」と言います。「アディポ」とは「脂肪の」という意味で、「サイトカイン」は「生理活性物質」のことです。
 そして、アディポサイトカインを分泌する働きは、内臓脂肪の方が皮下脂肪よりもはるかに高いのです。つまり、内蔵脂肪の方が、より臓器に近いことになります。この面からも、体にとって不可欠な存在ということになります。
 脂肪組織が普通の臓器とまったく異なる点は、人によって、また時期によって、その大きさがいくらでも変わることです。そして、どうやら体にプラスの働きをしてくれる大きさの範囲が決まっていて(個人差はあります)、それより大きくても小さくても、分泌異常を起こして不都合が出るらしいのです。
 つまりメタボリックシンドロームの原因とされる「内臓脂肪蓄積」とは、内臓脂肪組織が不都合の出るほど大きくなりすぎた状態を指しています。どのくらいの大きさが分岐点かは後述します。
 脂肪組織が大きくなる場合、ある程度までは脂肪細胞一つ一つが太るだけですが、細胞が太って吸収できる範囲を超えると、細胞が増殖を始めます。細胞の数が増えると、減らしやすいはずの内臓脂肪が相対的に減りにくくなるので、厄介なことも増えます。太り始めたら早めに手を打った方が楽なのは、これが理由です。

白色脂肪細胞と褐色脂肪細胞。  脂肪細胞の中には脂肪を溜め込む「白色脂肪」だけでなく、燃焼させて熱を発する「褐色脂肪」もあります。これは、体温調整機能が未熟な乳幼児段階で体を守るために存在すると考えられており、加齢と共に細胞の数が減ります。その活発さには大きな個人差があり、日本人の場合、働きが弱く太りやすい体質の人が多いことが知られています。

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