EBMを知ってますか?
いきなり横文字ですみません。
EBMを日本語にすると「根拠に基づく医療」です。
日本語で言え! と言いたくなるかもしれませんが、少しお付き合いいただけないでしょうか。
現在の医療がどういう発想で動いているか、見えてくるはずです。
監修/福井次矢 聖路加国際病院院長
西條長宏 国立がんセンター東病院副院長
医療は確率論 絶対はない
「EBM」は、医師が医療を行う際、拠り所となる考え方・手順です。米国を発祥地として1990年代から広まり、今は医療界の主流となっています。
といっても、かつて取得がブームになったMBA(経営学修士)の親戚ではありません。「evidence-based medicine」の頭文字でして、「evidence」は「根拠」とか「証拠」とか言う意味で、「based」が「基づく」、「medicine」が「医療」ですから、まとめると「根拠に基づく医療」という意味になります。
当たり前じゃないか、と思いましたよね。根拠のない医療をされてたまるかと。あるいは、そんな言葉をわざわざ造るということは、1990年以前の医療は何だったんだ、と不安になったかもしれませんね。
もちろん、それ以前の医療が患者に危害を加えるようなものだったわけではありません。とはいえ、日本語だけ見ると誤解しかねないのも確か。なので、あえて横文字のままの「EBM」が使われ、結果として一般の人からは取っ付きにくくなってしまっている面もあります。今回はこれを噛み砕いていきます。
話を進めるには、まず、医療に「絶対」はないという大前提を思い出していただく必要があります(06年11月号「医療安全」特集参照)。平たく言うと、どのような治療にも効果の上がる可能性もあるし、毒にも薬にもならない可能性もあるし、逆に悪影響の出る可能性もあるということです。
もちろん、どう転ぶかの確率がすべて等しいということはなくて、通常は「効果の上がる」方が「悪影響の出る」より相当確率が高いと考えられる場合、あるいは放置しても活路のないような重症な患者では「悪影響の出る」確率は高いけれど「効果の上がる」確率もあると考えられる場合に、治療が行われます。
そして、治療行為には大抵いくつかの選択肢があるものです。選択肢によってどちらへどの程度転ぶかの確率は異なり、さらにまた大抵の場合、時間的な制約や肉体的制約があって、複数の選択肢を同時に選ぶことはできないものです。
整理しますと、医療とは、まず患者の病態を診断し、その後で治療するのかしないのか、治療するとしたらどのような手段を用いるかを選んで実行し、治療後にその効果を測定し、治療を続けるのかやめるのか、続けるとしたらどの手段を用いるのか、と節目節目で選択と実行を繰り返すことに他ならないのです。
それでは、どのように進めていくのがよいのでしょうか。
はい、EBMの出番です。