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EBMを知ってますか?

質の良い根拠を元に「最善」を探る、ことです。
18-2.2.JPG EBMでは、右表のような5ステップで治療を行うことになっています。難しく見えるかもしれませんが、落ち着いて考えれば、皆さんも買い物などで日常的に同じことを行っているはずです。
 たとえば、冬を快適に過ごすという大きな目標のために①解決できる問題を考え(部屋が寒いので温かくしたい)②手段にどんなものがあるか調べ(器具はエアコンかヒーターか床暖房かこたつか、エネルギーは電気かガスか灯油か、どの店で買うかetc)③選択肢を状況や価値観に基づいて比較検討し(価格は? デザインは? 性能は? 配送は? 部屋に置けるか? 夏はどうする?etc)④行動し(買いに行き、場合によっては値切るetc)⑤事後評価する(部屋は温かくなった。でも、室内で過ごすのは退屈だ。よし次は娯楽だ)です。現実には②③④が渾然一体となっているかもしれませんが、思い当たりますよね。
 EBM以前の医療でも、意識していたかどうかはともかく、同じようなステップを踏んでいたはずです。わざわざEBMと言うのは、ステップの②と③の基準・拠り所に「evidence(エビデンス)」を用いるところに特徴があるからなのです。
 では「エビデンス」とは、一体何でしょう。医師と治療法について相談したことがある方は「あの治療にはエビデンスがない」とか「こんなエビデンスがある」とかいう言い方を聞いたことがあるかもしれませんね。
 どんなものが判断の拠り所になり得るのか、そこから考えてみましょう。
 まずテレビの健康番組などによく出てくる「基礎研究の知見」というものがあります。「これこれの物質にはこういう働きがある」「試験管での実験や動物実験ではこうだった」という類のものです。
 これらは残念ながら「エビデンス」とは見なされません。なぜなら人体は複雑で、試験管や動物の実験で得られた結果と同じにはならないのが一般的だからです。健康バラエティを多くの医療者が相手にしない理由もここにあります。
 では「人体での知見」はどうでしょう。医療者に身近なものとして「自分や所属集団の経験」があります。つまり、「別の患者ではこうだった」です。それから「権威者の言葉」があります。「あの先生が(経験を踏まえて)こう言っている」です。
18-2.1.JPG これらは確かに「エビデンス」です。しかし、あまり質の良いものとはみなされません(左表参照)。他へ当てはめることが適切かどうか第三者には検証できず、医療者の独善に陥る危険があるからです。
 EBMが提唱されるまでは、ここまでの「質の悪いエビデンス」で医療行為を選択されるのが一般的でした。医療行為そのものの「質が悪い」とは限りませんが、あまり気分の良いものではなく、また過剰医療と医療費増大を招きやすい状況にあったわけです。
 質の良い「エビデンス」とは、誰でも同じ結論を導き出せるような妥当な研究方法を用いて得られた人体対象のデータです。研究方法がどの程度「妥当」かによって、左表のように差がつきます。たとえば、薬の治験(06年10月号参照)で行われる臨床試験の場合も、比較対象がある実験か、比較対象との無作為化がされているのか(次項コラム参照)によって1bから・bまで質の差が3段階あることになります。
 極力質の良い「エビデンス」を根拠に、「最善」の医療行為を選択・実行する、これが「EBM」です。

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