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治験5か年計画見直しの議論スタート-数値目標設定を

 国内で実施される治験や臨床研究の質を上げるため、治験中核病院と拠点医療機関の整備や人材育成などの内容を盛り込んだ「新たな治験活性化5カ年計画」がスタートして3年目を迎えたことから、厚生労働省は6月30日、計画の中間見直しを実施するための有識者会議を開催した。10月末までに現在の計画に数値目標を盛り込み、必要に応じてアクションプランを設計し直す。(熊田梨恵)

 2007年に始まった「新たな治験活性化5カ年計画」は、海外での治験実施数が増加した「治験の空洞化」の解消を目的に03年にスタートした「全国治験活性化3カ年計画」の流れを継ぐもの。国内の治験や臨床研究体制の底上げを目的に、▽治験・臨床研究について、企画・運営できる「中核病院」10か所、円滑に実施できる「拠点医療機関」30か所を整備▽医師、治験コーディネーター(CRC)、生物統計家、データマネジャーなどの人材育成・確保▽国民への普及・啓発と、治験・臨床研究への参加支援▽治験・臨床研究の効率的な実施と企業負担の軽減-などが柱となってアクションプランが組まれている。

 厚労省が開いた「新たな治験活性化5カ年計画の中間見直しに関する検討会」(座長=楠岡英雄・独立行政法人大阪医療センター院長)は、計画の実施状況を評価して数値目標を設定し、国内で設置が進んだ中核病院や拠点医療機関の整備状況を評価して、新しいアクションプランを設定し、必要に応じて現在のプランの見直しを行う。特に、計画が最終目標に据えている「治験・臨床研究のコスト、スピード、質が諸外国並みに改善」「国際共同治験の実施数がアジア周辺諸国と同等以上の水準まで向上」に関する数値目標の設定や、治験中核病院や拠点病院の機能を明確化することが課題になる。
 
 見直しに関する詳細な内容は、項目ごとにワーキンググループを設置し、10月末までに結論を出す。

 会合冒頭、医政局の千村浩研究開発振興課長は、「これまでの取り組みを評価し、最終目標の達成に向け、これから2年間の具体的な取り組みについて議論していただきたい」と述べた。
 
 検討会では、事務局が計画の進行状況を説明した。

■アクションプラン1「中核病院・拠点医療機関の体制整備」
医療機関体制.JPG 臨床研究の立案や統計解析を行ったり、他の研究を行う医療機関にコンサルティングできるなどの機能を有する中核病院は計画通りに10か所整備されている。臨床研究支援部門でデータマネジメント部門を設置する病院は計画開始時の3か所から08年度には8か所に、研究者が個人的にコンサルティングを行っている病院は2か所から6か所に増えるなど、体制整備が進んでいる様子が見られた。一方、「着実に」治験や臨床研究を実施しており、症例の集積数が高いことなどが条件となっている拠点医療機関についても計画通り30か所整備されているものの、計画開始時から08年度までの間に1治験当たりの症例数が中央値で4件程度、実施率も中央値で7割程度とほぼ横ばいだった。

 これについて、田代伸郎委員(日本SMO協会副会長)は、「必ずしも改善していない結果」と述べた。現在の治験は基幹病院、開業医のそれぞれが中心になって行われているもの、混在しているものがあるとした上で、「この調査は大きい病院だけで、比較的難しい治験が集中している。1プロトコルの症例数も少なく、実施率が低い理由かもしれない」との見方を示した。計画が提示する中核病院を拠点病院が囲み、拠点病院に診療所がつながるような治験の連携体制は実態に即していないとして、症例を集約するには、生活習慣病など開業医が中心になって行っている治験が適しているとした。
 この発言を受けて座長は、生活習慣病などの治験はコストやスピードにも改善が見られるとしたが、抗がん剤など症例の集まりにくい治験が進んでいないとした。計画の連携モデルは症例を集積できるように考えて策定されたものとした上で、「当初考えたネットワークを組んでバーチャルに大きな病院のような体制で患者を集めていくのがいいのか、ここでその方向を変えてやり方を考えた方がいいのか、というのが今回の議論。方法としてバーチャルな病院を考えるしかない、というのなら残り3年間どうしていったらいいのかということの議論がある」と述べた。

 作広卓哉委員(日本製薬工業協会医薬品評価委員会臨床評価部会長)は、各医療機関での治験実施率でなく「ネットワークの中で何十例やるという発想にしてほしい。極端な話、中核拠点で実施率が20%でも、そのネットワークとして何十例、とやっていただければ依頼者としては満足」とした。ネットワーク体制の構築がうまくいかない場合には、計画上の中核病院や拠点医療機関の数を見直すことも考えられるとした。

 山本晴子委員(国立循環器病センター臨床研究開発部臨床試験室長)は、「経営母体など、なんらかベースが同じ組織でないと簡単に症例を集約できない。医療機関は地域ではある程度競合。大学同士も競合している」と述べ、治験事務局は協同できても、近い距離に存在する医療機関同士をネットワーク化するのは難しいとの見方を示した。

 一木龍彦委員(日本CRO協会専務理事)はネットワークの内容について、「米国のようにアフィリエイトで入れているという形もある」と提案。また、複数の医療機関のIRB(治験審査委員会)を1か所にまとめることができれば効率化につながるとした。

 新井茂鉄委員(日本医療機器産業連合会GCP委員会委員長)は、「集積性を高めないと、ただでさえ治験の数が少ないのに全施設でやれというのは無理。患者情報を共有化して離れた病院でもできる制度がないか」と、症例の種類で集めるなど、中核病院や拠点医療機関の中で効率的に実施していく方法を求めた。


■アクションプラン2「治験・臨床研究を実施する人材の育成と確保」
 このほか、事務局からは人材育成についての現状報告があった。CRC養成数が計画開始当時は5070人だったが、08年度には5961人にまで増えたことなどが報告された。


 国民への普及啓発については、山本委員精一郎委員(国立がんセンターがん対策情報センターがん情報・統計部がん統計解析室長)が「臨床研究には悪いイメージがある。基礎研究のほうがイメージが良い。臨床研究は『大丈夫』とかではなくて、『役に立つ』というメッセージを出していかないといけない」と述べた。

 
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