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それでいいのか薬価
さて、このような薬価の決まり方は、妥当だと思いますか?
改まって尋ねられると、言葉に詰まってしまうのではないでしょうか。
一般の商品だったら自由競争に任せておけば、消費者が「価格」と「メリット」を天秤にかけて買うか買わないか決める、製造側も「コスト」と「価格」を天秤にかけて製造販売を続けるか打ち切るか決める、という市場メカニズムが働いて妥当な価格に落ち着き、技術革新や新商品開発も起きるとされています。
しかし薬の場合、市場メカニズムが働きづらい状況にあります。
というのも、まずお金を払う人と受益者が微妙に違います。お金の大部分を払うのは健康保険を運営する保険者。薬によって直接のメリットを受ける患者が支払うのは3割以下です。まして、患者の代理人として薬の種類や使うか使わないかを決める医師側は、場合によっては薬価差益で利益が出ます。医薬品の価格を下げる方向の力は少ないわけです。
ならばと市場メカニズムが働くよう、患者自身へ医薬品価格の影響がダイレクトに届く設定にすると、お金が払えないから有用な医薬品をあきらめるなどということが起きかねず、それでは国民皆保険の理念とかけ離れてしまいます。
要するに「神の見えざる手」に頼るのは怖い分野で、そうである以上、誰かが決めねば仕方ありません。
その際、医薬品に対して、誰が、どの時点で、何を期待するのか、という3つの相互関係を整理する必要があります。
例えば特効薬のない疾患の患者なら、一刻も早い新薬・特効薬の開発を何より期待するでしょう。しかし同じ患者でも、現時点で特効薬がある場合、望むのはその安定供給でしょうし、保険者の立場になってみれば、払える総枠の範囲内で最大の効果を、ということになるでしょうか。つまり立場によって期待することは異なるのです。
お金を払う保険者の代表と、商品を供給する製薬業界の代表、仲介者たる医療界の代表に加えて有識者が一堂に会する中医協という場で議論するのが、現状では最もふさわしいと言えるでしょう。
ただし、もう少し大きな視点に立ち「医療崩壊」を食い止めることまで考えると、現状ではまだ足りないところがあります。
日本は、漢方文化の影響もあってか、欧米に比べて医療費に占める薬剤費割合の大きいことが以前から指摘されています。総医療費は先進国中最低クラスなのに、1人あたりで見ると米国の倍の医薬品を使っているそうです。
そして、医療機関にお金が残らない→人を増やせない→激務に耐えかねて退職者続出→医療機関の収益悪化、という「医療崩壊」の悪循環が明らかに起き始めています。
薬価で目配りすべきことかという問題はありますが、現在の制度では不要な投薬を抑制する効果は見込めません。
さらに、日本経済を考える大きな視点もあります。それを最後に解説します。
医薬品代金を支払うのは? 健康保険を使って医療を受けた場合、通常の出来高払いなら、医薬品費用の3割を患者が、7割を保険者が負担することになります。ただし、月々の患者自己負担が基準額を超えると、超えた分が保険者から払い戻される「高額療養費制度」があり、実際の患者負担は3割以下になります。 同じ効果なら安い薬を、医療機関が使いたくなる仕組みとして包括払い(06年7月号「DPC」特集参照)もありますが、現状ではほとんど高額療養費制度の対象になるので、やはり医薬品の患者負担が3割を超えることはまずありません。