旅行中の病気 備えあれば憂いなし
海外旅行をする日本人はいまや年間1700万人超。
多くは海外で蔓延する感染症に無防備です。
落とし穴はすぐ近くにあるのです。
監修/森澤雄司 自治医科大学附属病院感染制御部長
久住英二 ナビタスクリニック立川院長
交通や情報技術の発達により海外旅行が気軽にできるようになった今日。一方で感染症への対策は大幅に出遅れており、感染症までもがグローバル化しつつあります。衛生管理が行き届いた日本では、命を落とす病気の上位を生活習慣病が占め、感染症の恐ろしさは薄れつつあります。しかし全世界では今も感染症が最大の死亡原因。猛威を振るい、人々の命を奪い続けているのです。
飛んで火に入る日本人
ところが感染症に関する情報が行き届いていないため、海外旅行をする日本人のほとんどが「病気から身を守ること」を気にかけていません。まさに飛んで火に入る夏の虫状態。例えば東南アジアで、蚊にさされても怖いとも思わず、海岸も素足のまま歩いていたりします。現地の犬になめられて病気を気にする人はどれだけいるでしょうか。旅行者がみな予防接種をきちんと済ませているのかも、大いに疑問です。無事、健康で日本に帰ってこられたなら、運がよかったとというべきでしょう。
旅先によって注意する感染症は異なります。海外旅行を予定している方は、代表的な病気を厚生労働省検疫所ホームページで必ずチェックしてください。
破傷風のように日本でも気をつけなければならない病気もありますが、それらは予防接種も一般的となっています。一方、注意が必要なのが例えば狂犬病。全世界では今も毎年5万人が死亡しています。咬まれた後でも発病前にワクチンを接種すれば大丈夫なのですが、発病すると死に至る率は100%「最も致死率が高い病気」としてギネスブックにも掲載されています。
マラリアもなじみが薄いかもしれませんが、油断なりません。予防接種も無く、蚊に刺されただけで感染するのが怖いところです。アフリカ熱帯地方を中心に、全世界で年間3億~5億人が罹患し、150~270万人が死亡します。薬に耐性のある種も出てきており、とにかく蚊に刺されないしかありません。
また渡航者下痢症は、先進国の人々が衛生状態の悪い発展途上国に滞在中に起こす下痢の総称。旅行中に1カ月あたり30~80%の頻度で下痢を起こすといいます。次頁を参考に予防に努め、かかってしまったら水分補給をしっかりと。ほとんどが細菌によるものですが、素人判断で抗菌薬(抗生物質)は使わず、必ず医療機関を受診しましょう。