その胸の痛み 狭心症・心筋梗塞では
心臓病は、がん、脳卒中と並んで日本人の大きな死因です。
中でも代表的ないわゆる心臓発作が今回のテーマ。
致死的な発作に襲われないよう備えましょう。
監修/小坂眞一 国際医療福祉大教授
和田豊郁 久留米大准教授
筋肉には血が必要
まずは、おさらいから。心臓は、握りこぶし大の筋肉でできた袋です。その筋肉が規則正しく順々に縮んだり脱力したりしてポンプの働きを果たし、全身と肺へ血液を送り出しています。心臓自身も休みなく活動する筋肉なので血液が必要で、その血液は心臓表面を覆う冠動脈を流れてきます(08年3月号「不整脈」特集参照)。
さて、筋肉に十分な血液が供給されない(虚血状態にあると言います)と、筋肉は血液中から十分な酸素を取りこむことができす、また放りだすべき老廃物も出て行かずに蓄積します。その結果、痛みが出たり筋肉の動きに異常が起こったりします。
心臓にこれが起きると、胸を締めつけられるような痛み、圧迫感、不快感を感じることになります。心臓に血液供給が十分でないということは、冠動脈を流れる血液の量が少ないか、心臓で必要とする血液の量が多いか、あるいはその両方です。重度な貧血など別の病気が原因で症状が出ることもありますが、これは元の病気を治療すれば解決するので今回は触れません。
さて冠動脈を流れる血液の量が少なくなるのは、冠動脈が主に動脈硬化で狭くなったか、詰まったか。動脈硬化で動脈が狭くなるのは、血液中の酸化した脂質やそれを掃除しようとした細胞の死がいが、糊のようになって血管の壁の中にたまるから。この糊状のものを「アテローム」と呼びます(07年7月号「脂質異常症」特集参照)。また、冠動脈が痙攣して縮んでしまい、動脈硬化と同じような血管狭窄が一時的に起こる(冠攣縮と呼びます)こともあります。
冠動脈が狭くなって胸に痛みや圧迫感が出たのが「狭心症」です。狭心症が起きるのは、はじめは運動をしたときや何かに興奮したときです。心臓が普段より激しく働き、より多くの血液を必要とするからです。でも、どんどん動脈が狭くなって断面積の80%以上(時と場合によって若干の差があります)塞がるようになると、普段から血液が不足するために安静にしていても狭心症が起こるようになります。
血液の足りない状態が著しいと、心筋細胞が死んでしまうこともあります。これが心筋梗塞、いわゆる心臓発作です。激しい胸の痛みがあり、心臓の働きが失われるために生命にかかわります。
この狭心症と心筋梗塞を総称して「虚血性心疾患」と呼びます。原因が冠動脈にある場合が多いので、冠動脈疾患という呼び方でもほぼ同義です。