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患者の知らない診療明細 レセプト
審査って、レセプトの何を見ているのでしょう。
少し医療ニュースに関心のある方は「架空など不正請求をチェックしているに違いない」と思ったかもしれませんが違います。レセプトの記載通りに治療が行われたかどうか、実地調査なしに分かるはずないですよね。不正請求の摘発は、通常の審査とは別立てで社会保険庁の指導医療官(通称「医療Gメン」)が行っています。
通常の審査は、端的に言うと、保険から支払うべき体裁が整っているかを見ています。
レセプトに記載されている、患者氏名、性別、生年月日、患者の健康保険加入情報、請求元の医療機関名、診療科、病名とその1カ月の間に行った薬、注射、処置、手術、検査、画像診断、リハビリ等の点数。これらについて、記載漏れや間違いがないかどうかから、治療内容が保険適用上妥当かどうかまで段階的にチェックして、不備や疑義があるレセプトについては医療機関に戻したり(返戻と言います)、減点したり(査定と言います)をしているのです(コラム参照)。
返戻されたレセプトの多くは修正のうえ翌月以降に再提出されます。医療機関や保険者が審査内容に異議を申し立てた場合には再審査が行われます。
タイトルに出した「制限」というのは、主に治療内容に対する査定の話です。薬や治療行為が過剰だから、保険からは払いませんよと通告することになります。
患者、医療提供者、保険者の三者みな納得するような査定ならば理想的ですが、国が医療費抑制に大きく舵を切ったために、近年は単なる医療費抑制の手段になりつつあり、この病名ならこの薬はダメというような機械的査定が増え、またその基準もどんどん厳しくなっています。
たしかに過剰な医療は保険制度を破壊します。しかし、医療の進歩に比べて保険適用の拡大は遅くなりがちなので、過剰などでなく最善なのに保険を使えないという疾病と薬・治療の組み合わせが数多く存在します。
この、制度と現場の乖離をつなぐための必要悪的行為として、行いたい治療の方に合わせてレセプトに別の診断名を書くという「レセプト病名」づけが広く行われるようになっています。
しかも、ルール破りの共犯にするわけにいかない、と患者に知らせていない医師も少なくありません。後からレセプト開示の際に「知らない病名がついている」とトラブルの原因となることもあり、正常化が急がれます。
審査の締め付けがもっと厳しくなってレセプト病名でも対処できないと、医療機関は持ち出し覚悟で治療を続けるか、査定されない範囲に治療を留めるかのどちらかしかなくなります。最近は、どこの医療機関も経営が厳しいので、後者の運用が増え、結果的に患者からすると医療内容が後退しかねない状況になっています。
医療内容を後退させないためには、査定された医療機関側でも再審査請求を行ってせめぎ合いすべきなのですが、労力に見合わないと敬遠して「削られ放題」になっているのが実情です。
査定と医療費抑制は卵と鶏 医療機関が「削られ放題」を許している結果、合計すると毎年数千億円が査定されています。これが新聞などで「不正」とか「過剰」とか報道されることによって、医療費に無駄が多いという印象を国民に与えることになり、さらに医療費抑制圧力へつながるという負の連鎖を生んでいます。