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診療報酬の配分見直し論は、是か非か

保険局・神田裕二総務課長0729.jpg 近年、「医療崩壊」と言われる。医療者にとって「医療崩壊」とは、過重労働や訴訟リスクなどで必要な医療を提供できる環境が破壊されていることを意味するだろう。一方、患者側から見れば、必要とする医療をいつでもどこでも受けられなくなったことを意味するだろう。(新井裕充)

 このような「医療崩壊」の大きな原因に挙げられるのが、小泉政権下で打ち出された社会保障費の抑制策。2007~11年度の5年間で1兆1000億円、毎年2200億円ずつ削減する方針によって、医療提供体制を崩壊の危機にさらしたと批判されている。そこで、現状を改善するため、医療財源の増額や診療報酬の全体的な底上げを求める声はやまない。

 ところが、財務省サイドは「配分を見直せ」と主張する。財務相の諮問機関である「財政制度等審議会」が6月3日に出した建議を意訳すると、「うまくやりくりすれば足りるだろう」という内容にも読める。
 建議では、診療報酬改定の決定プロセスを批判。診療報酬改定は厚生労働相の諮問機関である中央社会保険医療協議会(中医協)で審議されるため、この審議を見直すこと、つまり、診療報酬の配分の見直しを求めている。
 これは、「医療財源をいかに増やすか」という議論から目を背け、配分方法にケチを付ける"責任転嫁"の考え方ともいえる。このため、建議に対する医療関係者の反発は強い。「医療費総枠の拡大が先決」「配分見直し論は議論のすり替え」などの批判がある。

 しかし、医療費の総枠を現在よりも大幅に増やしたら、配分の議論は不要になるのだろうか─。

 診療報酬改定を審議する中医協では、開業医を中心に組織する日本医師会の発言力が強い。このため、開業医(内科系)に偏った改定が長い間なされてきたとの指摘もある。そこで、診療所から病院への大胆な財源シフトを求め、「診療所の再診料などを大幅に引き下げて、その分を病院の診療報酬に充てるべき」という意見もある。
 このような考え方は最近、「社会保障国民会議」の最終報告(08年11月4日)で示された言葉を引用して、「選択と集中の考え方」とも呼ばれる。

 こうした「配分の見直し論」(選択と集中の考え方)に対し、開業医、勤務医を問わず医療者から聞こえてくるのは、「パイの奪い合いはナンセンス」など否定的な意見が多いように見える。配分の見直しよりも、まず医療財源を増やすことを議論すべきと主張する。
 確かに、勤務医の負担軽減や労働環境の改善を図る財源を診療所から調達すると、診療所が担う地域医療が危機に陥る恐れがある。「医療界の対立を煽る財務省の罠に引っかかるな」との指摘もある。
 
 現在、中医協では2010年度の診療報酬改定に向けた議論が進んでいる。焦点はもちろん、診療所・病院間の診療報酬の配分見直し。診療報酬改定の基本方針を決める厚労省の社会保障審議会では、7月9日に「医療部会」、15日に「医療保険部会」で議論がスタートした。

 9日の「医療部会」では、事務局(厚労省)の資料説明に多くの時間が割かれたため、各委員が個別の要望を述べる程度にとどまった。15日の「医療保険部会」では、診療報酬の配分見直し(選択と集中の考え方)が議論になった。

 この「医療保険部会」には、経団連ほか健康保険組合など保険者を代表する委員が多く参加している。このため、15日の同部会では、「選択と集中の考え方」に賛同する意見が多かったが、日本医師会常任理事の藤原淳委員が「選択と集中の考え方」を批判。
 「地域医療の荒廃の原因の1つとして『選択と集中』があった」などと述べ、診療報酬の全体的な引き上げを求めた。

 7月29日に開かれた中医協総会で、厚労省は両部会で出た意見を報告。「社会保障審議会医療保険部会(21.7.15)における主なご意見」と題する資料は、配分の見直しを是とするような書きぶりに仕上がっている。
 藤原委員は、資料の「診療報酬の配分の見直し、『選択と集中』について」という項の記述を批判。特に、「全体の引き上げが必要という話があったが、救急や産科・小児科をはじめとする勤務医の負担軽減などに重点をおくような検討が必要」との部分に噛み付いた。

 「私のメモと相当印象が違うように思う。かなりバイアスがかかった取りまとめをしているのではないか」─。

 問題の部分は、齊藤正憲委員(日本経団連社会保障委員会医療改革部会長)の発言を要約したものと考えられる。実際には、次のように述べている。
 「医療提供体制の底上げということで、診療報酬の大幅な引き上げが必要だという指摘もあるが、全体を引き上げたら、社会で問題になっている救急医療の充実や産科、小児をはじめとする勤務医の負担軽減策とか、全部を一緒に同じにしたのでは、また同じように、『そういう(診療)科の人(医師)も全部一緒か』ということになるので、この辺については、いろいろな検討等が必要だろうと考えている」

 社保審の両部会で出た意見の報告や、これに対する藤原委員(日医常任理事)の批判など、詳しくは次ページ以下を参照。

 【目次】
 P2 → 「テープ起こしの形で羅列、整理した」 ─ 厚労省
 P3 → 「私のメモと印象が違う。バイアスがかかった取りまとめ」 ─ 藤原委員
 P4 → 「手続きを経て、こういった形になっている」 ─ 対馬委員
 P5 → 「かなり個別の問題だ」 ─ 遠藤会長


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