認知症対策も「ハコモノ」か
認知症の患者が増加する中、厚生労働省は「認知症疾患医療センター」を中心とする対策を進めようとしているが、まだ全国に51か所しか整備されていない。厚労省は、同センターと地域のかかりつけ医との連携を重視しているが、果たしてうまくいくのだろうか。(新井裕充)
厚労省の調査によると、認知症の外来患者は増加傾向にあり、1996年の6万8000人から2007年には23万8000人に急増している。
認知症は暴力や徘徊などの問題行動を起こすため、重度になると精神科病院への入院を希望する家族も多いという。
しかし、厚労省は医療費を抑制するため、長期入院の患者を減らしたい意向。そこで前回の2008年度診療報酬改定では、認知症病棟の入院料について「90日以内」の点数を引き上げて退院促進を図った。
一方、認知症について早期の鑑別診断を行う専門機関として、「認知症疾患医療センター」の全国整備を目指している。また、地域のかかりつけ医の役割を重視し、認知症の疑いがある患者を早期に発見して専門の医療機関に紹介した場合の点数を前回改定で新設した。
ところが、精神科の高度医療を担う「認知症疾患医療センター」はまだ全国に51か所しかなく、目標の150か所には遠く及ばない。しかも、専門の医療機関に紹介した場合の点数はまだ200件しか算定されていない。
高齢化が進み認知症への対策が急がれる中、来年度の診療報酬改定を審議する中央社会保険医療協議会(中医協)が11月11日に開かれ、認知症対策について議論した。
「認知症疾患医療センター」の全国整備に意欲を見せる厚労省に対し、嘉山孝正委員(山形大学医学部長)は「地域の中小病院に手厚い診療報酬上の対応をすることが患者さんのためになる」と主張。鈴木邦彦委員(茨城県医師会理事、日本医療法人協会副会長)は次のように述べた。
「認知症疾患医療センターが全国に51か所しかないということだが、それも各都道府県によって偏りがあり、1つの県に何か所もある県もあれば私どもの県のようにゼロのような所もある。『紹介しようにも紹介先がないという』ということもあるが、実際は近くの精神病院さんとか、そういう所で診断・治療していただくのが実情なので、やはり(センターという)高度医療とは違うような感じがする。近くの病院に紹介すれば、(診療情報提供料が)取れるような仕組みにしたほうが普及しやすいのではないか。(算定が)200件というのは、いみじくもそういう問題点を表している」
認知症対策に関する同日の主な議論は次ページ以下を参照。
【目次】
P2 → 「センターの鑑別診断が大変重要」 ─ 厚労省課長
P3 → 「システム、体制の整備が重要」 ─ 厚労省課長
P4 → 「固定的なADL評価は難しいだろう」 ─ 安達委員
P5 → 「近くの病院に紹介すれば取れる仕組みに」 ─ 鈴木委員
P6 → 「区分の方向はいいが、実態調査を」 ─ 白川委員
P7 → 「通常のADL区分より広い概念がある」 ─ 佐藤課長
P8 → 「地域の中小病院に手厚い診療報酬上の対応を」 ─ 嘉山委員