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患者の知らない診療明細 レセプト
きちんと書いてないと返されたり金額を減らされたりするので、レセプトをきちんと作ることは医療機関にとって生命線になります。このため専門に行う人や専用コンピュータ(レセコンと言います)が必要になって、医療機関ごとに費用が発生しています。
同様に、支払い側でも巨大な事務処理費用が発生しています。医療費が足りない足りないと言われる中、患者の利益と直接関係のない中間経費にお金をかけ過ぎているような気もします。しかも、それだけ手間暇かけて集められたものであるにもかかわらず、審査・決済用途以外にほとんど使われていません。
既に欧米には、保険請求などの大規模データベースが何十も存在し、例えば未知の副作用の早期発見とタイムリーな対応などに重要な役割を果たしています。
逆に日本では医薬品などの安全性確保に使える大規模データベースが存在せず(コラム参照)、このために薬害肝炎などで誰が過去に製剤を投与されたのか追跡できないまま救済が遅れる原因となりました。
レセプトには究極の個人情報が含まれていることと、現在は手書きのものと電子データが混在していて別用途に使うには障害があったのですが、実は07年度から11年度までの5年間で、レセプト提出を電子データによるオンライン式へと統一することになっており、後者の問題が解決します。11年度末までに「医療サービスの質向上等のため」世界最大の薬剤使用に関するデータベース構築も同時に行われています。ただし、これで万全とは言えず、いくつか課題も指摘されています。
まずは日常診療への影響です。支払い側の事務量は減っても人が減らなければ、審査に力を入れることになるのが自然な流れです。結果として、患者の状況に応じた柔軟な対応が今以上に制限されるかもと懸念する声があります。
それは医療機関に一層の「レセプト病名」を強いることになるかもしれません。そもそも「レセプト病名」を放置したままデータベースにしたとしても、実態と乖離していていて使い物にならない危険性があります。
これをクリアするには、患者の最善を考えると「レセプト病名」を選ぶしかないという状況を変える必要があります。適用内か否かという機械的審査ではなく、医療の必要性に即した柔軟な審査が求められます。
機械的審査の背景には国を挙げての医療費抑制政策があります。審査を正常化するには、必要な医療を「査定」された時、医療機関が泣き寝入りしないことと同時に、患者側も一緒になって声を上げないといけません。
データベースの課題は他にもあります。現在の計画では、レセプト情報は匿名化されてから蓄積されます。個人情報保護のため匿名化は当然ですが、一方で元のデータを参照できる連結可能性も残しておかないと、特定の薬剤使用で重大な副作用が発生した場合などに、使っている患者さんをデータベース経由で特定できず、新たな副作用発生を未然に防ぐこともできなくなります。それでは何のためにデータベース化するのか分からなくなります。
自発報告制度はありますが 医薬品医療機器総合機構(PMDA)には、医療機関や製薬企業が自発的に報告した副作用情報のデータベースが存在します。しかし、マスコミなどで副作用事例が報道されると、その報告率が大きく跳ね上がることからも、自発報告されるのは、実際に発生しているうちの一部に過ぎないと考えられています。 このため、自発報告から発生割合を推定することはできません。また、類似の薬と比較して、副作用の発生割合が多いのか少ないかの比較もできません。