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がん① きほんのき(上)

どうしてがんができるのか。

 ここで、がんがどうやって発生するのか、駆け足で確認しておきましょう。
 人間の体には約60兆個の細胞があり、それぞれの細胞は生まれてから何度も分裂を繰り返し、全体の調和を保ちながら新陳代謝を繰り返しています。しかしその途中、遺伝子が体の内外からのストレスによって傷つけられたり、コピーミスが起きて、異常な細胞が生まれてしまいます。突然変異です。
 この突然変異こそ、細胞のがん化への第一歩。ただ、遺伝子の突然変異そのものは誰にでも毎日、何千何万カ所も起きている現象で、異常をきたした細胞はすぐに死んだり免疫に退治されることで、体全体の秩序が保たれています。ところがまれに、幾重もの防御線をかいくぐって生き残る異常細胞が現れます。なかでも、増殖を制御する仕組みが正常に働かない細胞が生まれ、生き残ってしまった時、それががん細胞として秩序なく勝手に増え続けていくのです。
 そして増大していく間、がん細胞は自らの活動のため、正常細胞が必要とする養分を奪っていきます。のみならず、がんが臓器を直接的に破壊したり、がんから毒素が出て体の機能が害されたりします。こうして患者さんの体は栄養失調状態になり、脂肪や筋肉等が次第に減って衰弱していきます。「悪液質」と呼ばれ、がんの人が食べていてもガリガリにやせてしまうのがこの現象。がんで亡くなる患者さんのうち、4分の1は悪液質が原因とされています。

なぜ免疫は出し抜かれる

 ところで、全身に2兆個もある免疫細胞が、なぜがんを打倒できないのでしょう。最初に異常な細胞が防御機構をすり抜けなければ、そもそも発症しないはずですよね。
 実は免疫細胞のうち、がんを攻撃できるものはごくごく一部です。それだけでなく、がんは増殖を始めると、免疫に発見あるいは攻撃されないよう、様々な策を仕掛けてくるのです。
 例えば、分裂・増殖を繰り返す中で変異して、がん細胞の特徴を免疫が認識した時には、既にその特徴を持たない細胞に変化していたりします。服装を目印に犯人を逮捕しようとしていたら、犯人がすでに着替えていたようなもの。これを次々繰り返し、免疫は後手後手に回らされるのです。
 さらに恐ろしいのは、免疫を弱めるわざ(免疫抑制)まで持っているところです。具体的には、がん細胞から免疫の働きを抑制するようなサイトカイン(情報伝達物質)を分泌するのです。いわば偽命令です。それどころか、免疫細胞が、がん細胞の増殖や転移を手伝わされることすらあります。警察が犯人逮捕に行ってパトカーを乗っ取られるようなものでしょうか。
 さらにがん細胞の数が増えると、免疫部隊の駐屯地であるリンパ節に入り込み(浸潤・転移。次頁でお話しします)、その働きを奪います。こうなると免疫細胞の数も減り、いよいよ自力での挽回は望めなくなります。

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