がん幹細胞を追いかけて② その目印には意味がある
腫瘍組織中にがん幹細胞があるかどうかは、「がん幹細胞マーカー」で見分けていると前回ご説明しました。
がん幹細胞マーカーは、がん幹細胞に特徴的に細胞表面に発現している分子(表面抗原)で、代表例の一つがCD44。細胞膜を貫通するように存在し、細胞表面上でヒアルロン酸と結合します。隣同士の細胞を橋渡しして、その凝集を介助するなど、多様な機能を持ちます。
「2003年に乳がんのがん幹細胞マーカーになることが報告されて以降、CD44は一般的な固形がんのがん幹細胞マーカーとして認識されるようになりました」(表)と、慶應義塾大学先端医科学研究所遺伝子制御研究部門の永野修講師は説明します。
転移しやすい
永野講師らの研究グループは、CD44のうち特に「CD44ⅴ(バリアント)」という変異型とがん転移の関係を追究しています。CD44vは、基本型(区別のためCD44sとも呼ばれます)にはないアミノ酸領域が挿入され、長くなったものです(図)。なぜこのような変異が生じるかについては、次項で説明します。
「CD44vは、1993年に『ランセット』で大腸がん転移への関与が報告されたのを皮切りに、様々な固形がんで転移との関係性が示されていました」(永野講師)
永野講師らは、マウスを使った実験で、転移しやすいマウス乳がん細胞株「4T1細胞」と、4T1細胞と同じマウスの乳がんから樹立されて遺伝的には4T1細胞と同じなのに転移しにくい・しない乳がん細胞株を比較しました。その結果、4T1細胞のみ、CD44vを高く発現していることが分かりました。
ただし4T1細胞にも、CD44v陽性の細胞だけではなく、「CD44v陰性でCD44s陽性」の細胞があると確認されました。そこで、CD44v陽性細胞と、CD44v陰性(CD44s陽性)細胞をそれぞれマウスの乳腺へ移植し、30日後に肺転移の有無や転移巣の大きさについて検討。すると、移植部分に発生した乳がんの大きさは両者で大差なかったのに、肺転移はCD44v陽性細胞の方が明らかに多かったのです(陽性細胞では13例すべてで肺転移、陰性細胞では11例中3例のみ肺転移)。