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がん⑥ 抗がん剤なぜ効くのか2


体への負担少なく進行を遅らせる。

 さて「性ホルモンで成長するがん」の場合、やはりというべきか、性ホルモンの分泌が止まるとがん細胞の増殖も抑えられることが観察されています。これを人為的に行うのがホルモン療法の仕組み。直接的にがん細胞を殺すというより、性ホルモンの供給を絶ってがん細胞の増殖を止め、自滅に追い込もうというものです。
 そのためホルモン療法だけでがんを根治することはできせんが、がんの進行を遅らせるのには有効。なおかつ細胞毒系の抗がん剤のように直接的に細胞やDNAを破壊したりするわけではないので、強い副作用が少ないというメリットがあります。欧米では特定のがんの発症リスクの高い人に対し、予防的に投与されてもいます。ただ、細胞毒系の抗がん剤と組み合わせると、相性によっては作用が相殺されたり副作用が強まってしまうことも。注意が必要です。

ホルモン剤もいろいろ

 ホルモン剤にもいくつか種類があります。近年のがん治療で最も多く使われているのが、「抗ホルモン剤」と呼ばれるもの。これは、特定のホルモンに似せた物質で、送り込まれたがん細胞の中にホルモン受容体があると、ホルモンを出し抜いていちはやく結合してしまいます。結合したところでそれはホルモンではありませんから、何の指令を担っているわけでもありません。そうしてがん細胞を増殖させる情報伝達を阻害するのです。女性特有のがんには女性ホルモンのエストロゲンに似せた抗エストロゲン剤、男性特有のがんにはアンドロゲンに似せた抗アンドロゲン剤がそれぞれ使われます。
 これに対し、がんの治療にホルモン剤が使用され始めた頃は、そのものずばり性ホルモンの製剤を投与するのが主流でした。ホルモンは、反作用をもつ別のホルモンによって分泌が促進されたり、抑制されたりする性質があります。そこで、男性ホルモンによって増殖する前立腺がん等にはエストロゲン製剤など女性ホルモンを投与、女性ホルモンによって増殖する乳がんや子宮体がん等にはテストステロン製剤など男性ホルモンを投与、というふうに〝逆の性ホルモン〟で対抗するわけです。
 性ホルモンの分泌を抑制するものとして他に、性ホルモンの分泌を促すLH(性腺刺激ホルモン)やLH‐RH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)に似せた薬剤を投与する方法があります。特に「LH‐RHアゴニスト製剤」は実効性が多く報告されています。アゴニストとは、受容体に結合して生体ホルモンと同じ作用を及ぼす化合物のこと。ちょっと聞くと、抗ホルモン剤がホルモンと似ていることを利用しているのと同じやり口かと思われるかもしれませんが、厳密には逆の働きを使っています。LH‐RHアゴニスト製剤は、体から分泌されるLH‐RHの数十倍の強さで下垂体の受容体を刺激します。すると一時的にLHの分泌は高まりますが、連続的に過度に刺激されたLH‐RH受容体はかえって減少していくのです。結果、LHの分泌が抑制され、ホルモン分泌が抑えられる仕組みというわけです。
 このほか、性ホルモンの生産に関わる酵素の働きを抑えることで、ホルモン分泌を妨げる「ホルモン生成阻害剤」もあります。例えば、女性ホルモンのエストロゲン産生に必要なアロマターゼの働きを抑える「アロマターゼ阻害剤」が女性特有のがんに多く使用されています。
 こうしたホルモン剤の多くは、液剤や錠剤の形で毎日服用します。LH‐RHアゴニスト製剤は皮下注射で投与します。

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