がん⑩ こんなに多様な医療スタッフ
リハビリと苦痛軽減
治療が一通り済んだら、リハビリテーション(回復訓練)が前面に出てきます。
理学療法士は、主に、ベッドから起き上がる、立つ、歩くなどの基本動作について指導します。寝返りや痰を出すなど些細な動作でも、がんの治療や進行によっては、痛みや困難、危険が伴うようになることもあり、リハビリは大いに役立ちます。また、緩和ケアとして、身体の不快な症状(慢性的な痛み、だるさ、むくみ、呼吸困難感など)の軽減や、体力維持・向上を図る際にも活躍します。
作業療法士は、食事や着替え、排泄や入浴、整髪などのリハビリを担当します。スプーンや箸を使う方法、ベッドから車いす、さらには便器へといった移動法を指導するのです。
言語聴覚士は、口の周りの言語機能と嚥下機能を改善するリハビリを担当します。がんによっては、食べる、話す、聞く、読む、書くといった機能に障害が生じることもあるからです。
歯科衛生士は、歯の清掃や薬物の塗布などを行います。私たちの口の中には、健康でも歯垢1mg中に1億~100億もの細菌がいて、がん治療などで免疫力が下がると、全身に循環していろいろな症状を起こします。しかし、例えば頭頸部がんの術前・術後に歯科衛生士が口腔ケアをしたところ、術後の合併症(傷口の感染や肺炎など)が4分の1まで抑えられ、口から食事ができるようになるまで7日間短縮されたという報告もあります。
痛みや悩みを小さく
がんの進行度にかかわらず、心身の痛みや不快感を和げるのが緩和ケアです。
がんと付き合うとなれば、誰しも心身ともに大きなストレスを抱えるもの。臨床心理士は、チーム医療の一環として、心を支え、ケアにあたる専門家です。がんの治療やその経過に伴う孤独感、死への恐れ、悲観などの苦痛を和らげることが期待できます。患者さんだけでなく、その家族の心もサポートします。
身体面での緩和ケアでも、看護師やリハビリスタッフが大活躍しますが、特化した職種もあります。
例えば、手術や放射線治療の後遺症として、体内のリンパ液の流れに障害が起き、むくみが出て、慢性的な鈍痛やだるさ等に悩まされる「リンパ浮腫」の対策です。リンパ管をやさしく刺激し浮腫を改善する「リンパドレナージ」というマッサージが行われます。医療リンパドレナージセラピストは、NPOの認定資格で、理学療法士や看護師が取得して施術しているケースも多いようです。
ただ、以上で説明してきたようなリハビリや緩和ケアの歴史はまだ浅く、全国津々浦々で行われているとは言い難い状況です。すべてが健康保険でカバーされるわけでもありません(がんの種類によっても異なります)。より多くの患者さんが手軽に利用でき、より高いQOLを実現できるよう、制度や体制の変革も期待したいところです。