梅村聡の目⑰ タバコ政策の「壁」に挑み、数値目標入れました
6月8日に閣議決定した「がん対策推進基本計画」に、喫煙率を2022年度までに12%へ削減する数値目標が初めて盛り込まれました。これまで手着かずの分野でした。
がん対策推進基本計画は、がん医療などの課題と目標を5年ごとにまとめるものです。今年、初めての改定を迎えました。
目玉は、これまで関係者や政治家の強い反対から盛り込めなかった喫煙率の数値目標を初めて掲げたことでしょう。国内の喫煙率は10年の調査で19.5%(男性32.2%、女性8.4%)でしたが、これを22年度までに12%へ引き下げることと明記しました。この数値目標を入れるため奔走しました。
事後報告になってしまったのは、タバコ対策は、以前書いた生活保護改革と同じく政治家にとって繊細な問題だからです。「繊細な問題」とは、突き詰めていくと命につながる話で、一方では様々な「思惑」が絡んで、これまでの政治家が手を着けにくかったことを指します。現時点では反発も大きいかもしれませんが、後世に評価を受ける政策だと思います。
財務省が大株主
学生時代や医師になってから、タバコを吸って病気になっていく人たちをたくさん見てきました。がん、心筋梗塞、脳卒中、COPD、糖尿病......。タバコは、様々な病気をひき起こすきっかけにも、病状を悪化させ進行を早める要因にも、なります。副流煙は周囲の方々の健康に影響します。個人の健康や社会にとって、良いことは何一つないと言えます。
なので、政治家になる前からタバコ対策に取り組みたいと思っていました。しかし実際に活動を始めると様々な「壁」にぶつかりました。タバコ農家やJT、小売業者などの方々、そして財務省です。
ずっと変だと思っていたのですが、財務省は消費税をはじめ一般の税を上げることには積極的なのに、たばこ税アップには基本的に反対の姿勢なのです。理由は「税収が減る」。しかしそれはたばこ税に限らないはずです。そもそも、以前タバコが値上げされた際、税収は減らず喫煙率が減りました。なぜ、たばこ税だけ反対なのかと思っていたら、実は財務省がJTの大株主でした。だからタバコの値上げや喫煙率の数値目標設定は難しかったのです。
条約に違反する国
日本は04年、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約(FCTC)」を批准しています。国内でタバコを規制していく枠組みを定めたもので、タバコ値上げ、喫煙率設定と下げるための努力、タバコ規制の法的枠組み作り、自販機やコンビニでの陳列販売の禁止、タバコ業界を応援する法律をやめる、タバコ業界を広告スポンサーに入れない、タバコの害についての知識の普及啓発、副流煙から守るための対策など様々な約束事があります。タバコ農家は、別の仕事ができるよう保障すべきともなっています。
条約は、国内法より上位に位置します。条約を締結したなら、国内法を整備して守らなければいけません。もしタバコの規制に反対したいなら、条約の批准そのものに反対するべきだったのです。
10年に、電子タバコからニコチンが検出されたことがありました。その際、厚労省は「ニコチンの検出された電子タバコは薬事法で扱うべき」という趣旨の通知を出しました。一般のタバコには、ニコチンやタールなどがもっと多量に含まれているわけですから、薬事法に匹敵する法律で厳しく規制してよいはずです。しかし日本国内でタバコを規制するのは、受動喫煙防止をうたった健康増進法や未成年者喫煙防止法ぐらいしかありません。一方で、タバコ産業の健全育成を目的とした「たばこ事業法」は残っていて、完全にFCTC違反です。
医療政策の柱として
国は「医療費に充てる財源が足りない」と言います。なぜかと訊けば、「病気を持つ高齢者が増え、その自然増が多いから」と言います。それなら、まず自然増を抑えるべく考えるべきで、タバコ対策はダイレクトに効果を上げるはずです。子どもの喘息やアレルギーにも関与していて、影響は広範です。
私はタバコ対策を実効性あるものにするために、改定を迎えるがん対策推進基本計画の中に、喫煙率の数値目標を入れるべきだと思いました。しかしいわゆる族議員は「タバコは嗜好品、ストレス解消にもつながる。喫煙率の数値目標は入れるべきではない」と主張します。
そこを乗り越えるため、厚労省のアンケート調査で「タバコをやめたいと思っている」と答えた人が実際にやめた場合の数値である12%を目標に設定しました。吸いたいと思っている人にまで強制する数字ではないので、足掛かりとしてはよいと思いました。
しかし、自民党のタバコ関連の委員会は「(数値目標の入った)計画自体を閣議決定するな」と言いますし、民主党内でも反対運動が起きました。
決め手となったのは、私を応援してくださった、あるタバコ好きの国会議員の存在でした。「個人的にはどうかと思うけど、やめたい人だけがすべて禁煙した時の数字なら『強制』ではないのだから、そこは見過ごそう」と笑ってくれたのです。そのキーマンのおかげで、他の強硬派の方々にも様々な方法で対処できました。そして、ついに喫煙率12%を掲げたがん対策推進基本計画が閣議決定されたのです。
財務省の方々からは、「先生はタバコ対策もやるし、診療報酬もアップさせるし、どういう方ですか」と笑われました。誤解がないように申し上げれば、私はタバコ関係者を攻撃するつもりは毛頭ありません。またJTがタバコ分野以外に事業を広げていくことに対しては積極的に応援したいと思っています。一方で国民全体の健康を考えるのも政治家の大切な仕事だと考えています。
タバコ対策について、今回やりたいことの半分はできたと思っています。しかし、本当の目標はタバコで健康を害する国民を減らすことですから、きちっと規制するような法整備が必要かもしれないと考えています。また、個人的な考えですが、自分の健康には注意を払うというのが国民皆保険の前提ですから、タバコを吸っている人と吸わない人とでは保険料に差をつけてよいと思っています。