高齢化は悪いことではない 2周目の人生も緩やかに現役で
梅村聡の あの人に会いたい 江崎禎英・経済産業省ヘルスケア産業課課長 (上)
患者の自律をサポートするには何が必要なのか、元参院議員・元厚生労働大臣政務官の梅村聡医師が、気になる人々を訪ねます。
梅村 ヘルスケア産業課長になられて何年になりますか。
江崎 丸2年になります。前の部署(生物化学産業課長)と合わせて、健康医療分野の仕事は6年目に突入しました。
梅村 色々な所で講演なさっていますよね。その発想がユニークで感銘を受けたという声をよく聴くのですが、ご存じでない読者も多いと思いますので、どんなことを考えてらっしゃるのか、簡単にお話しいただけますか。
江崎 分かりました。現在、日本の喫緊の課題であり、世界でも重要課題になりつつあるのが「高齢化」です。
梅村 そうですね。
江崎 ただ、「高齢化」が議論されるとき、多くの人が出発点を間違えているような気がします。誰もが長生きしたいと願い、経済の豊かさと医療技術の発展によってそれが可能になれば、社会は必ず高齢化します。本来、高齢化は悪いことではないのです。しかし、一般には、経済活動の鈍化や社会保障財政の逼迫など暗い話題ばかりが先行し、若い世代がお年寄りをどうやって支えるのかという負担論に終始しています。この辺りから議論を整理しなければならないと思っています。
梅村 その通りだと思います。
江崎 生物学的にヒトの寿命は約120年と言われています。日本では60歳を「還暦」と呼びますが、人は健康で長生きすると、暦が2周するのです。問題は、この2周目の人生をどう生きるかというテーマに、個人も社会も十分に対応できていないことです。
梅村 なるほど。
江崎 現在の日本の社会保障システムは、1960年代から80年代にかけて、その基本型が作られています。この時代、65歳以上の高齢者は全人口の1割にも満たない水準で、ごく少数の高齢者を多くの生産年齢人口が支える構造でした。この結果、「ジャパン・アズ・ナンバー1」と言われた経済力を背景に、国民皆保険に代表される手厚い社会保障サービスを提供することができました。
梅村 そうですね。
江崎 増大し続ける医療費の問題で言えば、40兆円という額の大きさばかりがニュースになりますが、いつどのように使われているかは意外に知られていません。注目すべきは、平均寿命と健康寿命の間に10年近いギャップが生じていることです。40兆円を超える膨大な医療費の大半は、この期間に使われています。しかも、医科診療費の約3分の1は生活習慣病に費やされているのです。
梅村 確かにそうなっていますね。