食べ物と添加物と健康2
ダイエット飲料 肥満や糖尿病の原因
大西睦子ハーバード大学リサーチフェロー
医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンに。
最近米国では、砂糖の代わりに人工甘味料を用いてカロリーをゼロにしたダイエットソーダが肥満の原因になると話題になっています。
テキサス大学ヘルスサイエンスセンターのジェニファー・ネットルトン博士は、6814人の成人でダイエットソーダを飲んだグループと飲まなかったグループを8年間追跡し、毎日ダイエットソーダを飲んだグループの36%にメタボリック症候群のリスクがあること、67%に2型糖尿病のリスクがあることを2009年に報告したのです。
カロリーゼロなのに、なぜ?
どうやら、その甘みに原因があるようなのです。
脳の反応
私たちが食べ物から体にエネルギーを取り込む際、その調節に重要な役割を果たしているのが、脳内報酬系です。
カリフォルニアの研究者たちが、19歳から32歳の成人24人を、習慣的にダイエットソーダを飲んでいるグループと、カロリー有りソーダを飲んでいるグループに分け、12時間の絶食後に人工甘味料のサッカリンと天然甘味料のショ糖を摂ってもらい、MRIで脳活性の変化を調べた結果、次のことが分かりました。
ダイエットソーダの人たちは、カロリー有りソーダの人たちに比べ、脳内報酬プロセスを担っている脳領域が大きく活性化しました。この脳領域は、食べ物だけではなく麻薬でも活性化され、習慣性や依存・中毒をもたらす所です。動物実験で、食べ過ぎで肥満になった場合、脳内の信号を伝える経路が麻薬中毒の場合と同じになっていることが観察されています。ダイエットソーダの常飲者も、"甘み中毒"になっている可能性があります。
また、二つのグループでは、右眼窩前頭皮質という部分の活性にも違いがありました。カロリー有りソーダの人たちでは、サッカリンの方に大きな反応が見られたのに対して、ダイエットソーダの人たちでは二つの甘みで違いが出なかったのです。眼窩前頭皮質に損傷があると、アルコール、タバコや薬物の摂取過多が起きます。カロリー有りソーダの人たちの脳がサッカリンに大きく反応したのは、人工物の過剰摂取を抑えようとする自然の反応かもしれません。
さらに、ダイエットソーダグループの人たちでは、1週間に飲むソーダの量が多ければ多いほど、サッカリンに対する脳の右尾状核という部分の活性が減少しました。尾状核は脳の学習や記憶に大切な部位で、以前から、その機能が低下すると肥満の原因となると言われています。
これらを総合すると、ダイエットソーダを習慣的に飲んでいる人は、甘味に対する脳内報酬系に変化が生じ、それが肥満の原因になると考えられます。そして、この変化はダイエットソーダの消費量に比例します。
体の反応
ボストン大学のバーバラ・コーキー博士のグループは、動物実験で、アスパルテーム、サッカリン、スクラロースなどの人工甘味料を摂取した後、インスリン分泌が上昇することを報告しました。カロリーはなくとも、体は、カロリーのあるものと同様の反応をするということです。
血糖上昇がないのにインスリンが分泌されると、一時的に低血糖となります。低血糖は生命の危機ですから、体はすぐ食欲を増進させます。人工甘味料を摂取するほど、空腹感は増します。
さらに人工甘味料を摂取し続けると、騙されまいとする体の機構が働いてインスリンの分泌が徐々に悪くなり、しまいには本物の糖を摂取してもインスリンが分泌されなくなる可能性があります。これは糖尿病と同じ状態です。
ちなみにインスリンは、脳で、幸せの神経伝達物質であるセロトニンの分泌を増加させます。インスリンの分泌が低下すると、幸せ感も低下します。そう言われてみれば、甘いものを食べている時に幸せを感じませんか? 対して、たくさん人工甘味料を摂取している人に抑うつ状態をよく見かけます。インスリン分泌の低下のためかもしれません。人工甘味料の摂取を中止することで、抑うつが改善したという報告もあります。
これらのことから導き出される結論は、ゼロカロリーのものを選んで運動しないより、適度に天然甘味料で甘みとカロリーを摂取して運動した方が良さそうです。