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食べ物と添加物と健康3

天然の甘味料も その特性は様々

大西睦子

ハーバード大学リサーチフェロー
医学博士。東京女子医科大学卒業。国立がんセンター、東京大学を経て2007年4月からボストンに。

 前回、人工甘味料を使ったダイエット飲料はお薦めできないことを書きました。だったら天然甘味料なら良いのかというと、そう単純な話でもありません。

 次の中で、あなたが好きな甘い飲み物はどれですか?

①コーラなどの清涼飲料水
②100%のオレンジジュース
③砂糖入りコーヒー
④蜂蜜入り紅茶
⑤黒糖ミルク

 この5種類の甘みは天然甘味料に由来し、その種類がすべて異なります。

果糖は肝臓に負担

 天然の甘味料を細かく分解していくと、ほとんどが最小単位(単糖と呼ばれます)であるブドウ糖(グルコース)か果糖(フルクトース)になります。例えば砂糖(ショ糖=スクロース)は、ブドウ糖と果糖が1個ずつ結合したものです。

 果糖はブドウ糖より甘みが強く、特に温度の低い時、この傾向が顕著です。

 そして、似たようなものと思われがちなブドウ糖と果糖、実は代謝経路が全く異なります。ブドウ糖は、小腸から吸収されて血液中に入り、全身の細胞に運ばれエネルギーとして利用され、余った分が中性脂肪となって貯蓄されます。対して果糖は、ほとんど肝臓で代謝され、エネルギー不足でなければ中性脂肪などとなって貯蓄されます。つまり、果糖の方が甘くておいしいけれど、肝臓への負担が大きく脂肪肝を招きやすいと言えます。

 さて、先ほどの5種類に入っている甘味料は何でしょう。

①コーラなどの清涼飲料水
 トウモロコシなどのでん粉を酵素処理して生産される「高フルクトース・コーンシロップ(high-fructose corn syrup;HFCS)」が使われています。日本でのHFCSの呼び名は異性化糖です。そんな栄養表示は見たことがないと思うかもしれませんが、「ブドウ糖果糖液糖」(果糖含有率50%未満)あるいは「果糖ブドウ糖液糖」(果糖含有率50-90%)という表記なら、お馴染みですよね。これらが異性化糖です。清涼飲料水には異性化糖が12%程度含まれています。すなわち500mlペットボトル中に約60g。一気に大量の糖を摂取することになり肥満への近道です。子どもの肥満が深刻な米国では、学校の自動販売機から高カロリーの清涼飲料水は撤去されました。

②100%のオレンジジュース
 オレンジジュースに含まれる単糖の割合は、ブドウ糖3に対して果糖4(正確には、ブドウ糖1・果糖2・ショ糖2)です。糖の濃度もコーラなどと同程度で、カロリーにするとコップ1杯で84kcalとなります。ただしコーラなどと違って、ビタミン・ミネラルも含まれています。

③砂糖入りコーヒー
 ショ糖は、約21gで80kcal(糖尿病などの食事療法の際の1単位)となります。角砂糖1個で4g程度です。

④蜂蜜入り紅茶
 平均的な蜂蜜は、ブドウ糖35%、果糖38%、水分21%他という構成です。多くのビタミン・ミネラルが含まれている上、27gで80kcalと他の糖よりカロリーが低めです。

⑤黒糖ミルク
 黒糖は、サトウキビのしぼり汁を精製しないでそのまま煮詰めたもので、ビタミン・ミネラルなどの栄養成分が残っています。例えばカルシウムは100g中に240mg含まれ、牛乳1本に匹敵します。23gで80kcal。もし100g摂取したなら糖分の取り過ぎです。

異性化糖にご用心

 こうして比べると、異性化糖入り清涼飲料水の糖分の多さが目につくと思います。
 異性化糖の技術は日本で開発されました。おいしいけれども果物などから抽出するしかなく高価だった果糖が、この技術によって砂糖よりも安く得られるようになったため、1970年代からアメリカの食文化は大きく変化しました。現在、日本でも糖類の需要の4分の1は異性化糖で賄われているそうです。

 遺伝子組み換えトウモロコシを原料に大量生産できる異性化糖は、企業に多くの利益を生むことでしょう。しかし健康には全く利益がないようです。

 米国プリンストン大学の研究者たちは、グラニュー糖を摂取したマウスより、同量の異性化糖を摂取したマウスで著明な体重増加があったことを報告しています。他にも多くの研究者が、異性化糖が肥満、高血圧や糖尿病などの原因であると報告しています。

 私たちが、果糖を果物や野菜から摂取(リンゴ1個に含まれる果糖は約16g)しても、同時に食物繊維やビタミン・ミネラルなど生命に重要な栄養素も摂取しますので、果糖の悪影響は緩和されます。しかし異性化糖を用いた清涼飲料水では、果糖の悪影響だけが体を直撃します。

 喉が渇いたなと思った時、今回の話を思い出して、より健康的な飲料を選んでいただけたら嬉しいです。

(注釈)
*この天然甘味料の話を、もっと詳しく知りたい方は『ロバスト・ヘルス』をご覧ください。

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