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がん低侵襲治療④ 頭頸部がん

腫瘍の形に合わせ正常組織に当てない

 現在、がん研有明病院では、頭頸部がんの放射線治療として「3D-CRT」(3次元原体照射)と呼ばれる照射が標準的に行われています。
86-1.5.jpg CT画像などを用いて腫瘍の情報を立体的に把握し、特殊なコンピュータープログラムで放射線を腫瘍の形に沿うように飛ばします。それによって腫瘍の周りへの余分な照射が避けられ、その分、腫瘍へはより多くの線量を照射できます。
 正常組織と腫瘍が近接していたり、ターゲットが複雑な形状の場合は、3D-CRTを進化させた「IMRT」(強度変調放射線療法)が用いられます。
 利安医師は、「IMRTとは、一つの照射野内の照射線量に強弱をつけられるようにしたものです。放射線が通り抜けられない金属板を帯状に並べ、コンピューター制御で少しずつずらしていくことで、放射線の出てくる窓の形や大きさを変えながら照射することができます。これを色々な方向から重ね合わせることで、腫瘍本体を強く照射し、その周囲をほどよく照射するように線量をコントロールできます」と説明します。
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医師と技師の連携

 そもそも放射線治療を行うかどうか、がん研有明病院では、様々な診療科スタッフが集うキャンサーボードで決定します。その後、治療効果と副作用を考えながら、放射線腫瘍医を中心に治療計画が作成される、という流れです。
 どの照射方法を採用するかは、病巣の部位、進行度合い、リスク臓器の分布など総合的に勘案して決められます。
「どこにどれだけの線量を、どんなスケジュールで当てるか、コンピューター画像を見ながら細かく指定していきます。例えばIMRTの照射計画を立てるのに、1症例あたり10時間程度かかることもあります。その後、照射範囲等を確認するためのテストにもさらに10時間を費やします」(利安医師)。ものの数分間の照射であっても、医療スタッフにはそれだけの知力と労力が要求されるわけです。
86-1.4.jpg ところで、コンピューター上で照射範囲を詳細に指定できても、患者の体の位置が毎回違っていては、実際の照射範囲が想定とずれてしまいます。「そこで重要になってくるのが、体の固定です」と利安医師。
「診療放射線技師と連携して、患者さんが最も楽な姿勢を保てるよう配慮しながら、一人ひとり個別に、首から頭まで覆うお面のような型を取り、固定具を作ります」
 その精緻さは「ミリ単位」。さらに体にもマーキングをして、位置がずれないよう工夫をします。固定技術の進化も、低侵襲化を支えてきた一つの大きな要素と言えそうです。
 「頭頸部がんは、放射線が比較的効きやすい症例が多いのですが、ご説明した通り放射線治療も万能とは言えません」 
 そもそも腫瘍が一定以上の大きさになれば、今でも手術がまず検討されますし、あるいは放射線治療後も、治りきらないと判断されれば手術に踏み切ることもあるそうです。近年では、放射線と抗がん剤を併用する化学放射線治療の効果も明らかになっています。
「各科それぞれの強みを投じて根治をめざす。がんの治療はそうあるべきと考えています。病院の〝総合力〟が問われる病なのです」

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