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がん医療を拓く④ ふぞろいを狙い撃つ

85-2-1.JPG がんでは、細胞が無秩序に増殖を続けます。そして、本来は同じ性質を持った細胞が並ぶはずのところが、極めて「不均一(ふぞろい)」な細胞集団になっています。今後この不均一さが、治療の新たなターゲットとなるかもしれません。

85-2.2.JPG 元々は自分の体の細胞なのに、遺伝子の異常によって、無秩序に、無限に増殖してしまう――これが、これまで繰り返し説明してきたがん細胞の性質でした。たとえて言うなら、細胞増殖を操るアクセルが過剰だったり、ブレーキが壊れたりして、自身の暴走を止められなくなっている状態です。そして、がんに対する治療法の開発も、もっぱらこの「アクセル」や「ブレーキ」に着目して行われてきました。

 しかし実は、もう一つ、一般の人にはあまり知られていない重要な性質があったのです。それは、がんが「不均一な細胞集団」であることです。

 今回は、ここに焦点を当てます。

本数がバラバラ

 まずは生物の授業の復習です。ヒトの細胞には、細胞の設計図に当たる遺伝情報の載った染色体が、父親由来の23本と母親由来の23本、計46本入っています。生殖細胞を除き、体のどこの細胞を取ってみても、全く同じ23対(46本)です。ただし、体の部位や器官ごとに使われる遺伝情報が異なるため、それぞれ細胞が特徴的な形や機能になっているのです。

「ところが、今から約150年前、ドイツの病理学者が、がん細胞の染色体の数が46本ではなく、かなりバラついていることを発見しました。ある患者さんのがん細胞が、それぞれ違う数の染色体を持っているのです。数が違うだけでなく、対の組み合わせが変わっていたり、染色体そのものの形が変わったりもしています」と解説するのは、がん研究会がん研究所実験病理部の広田亨部長(医学博士)。これが、がん細胞の「不均一性」です。

 入っている遺伝情報が細胞によってバラバラですから、でき上がってくる細胞たちも「想定された形や機能に向かうことなく、多種多様な振る舞いをする細胞の集団」になってしまうと考えられます。

 結果、例えば運動能力の高い細胞が出てきて勝手に移動すれば、転移の原因となります。また、抗がん剤に対抗するような機能を持ったものが出てくれば、薬剤耐性獲得から再発という流れの原因となります。

 つまり、がんの不均一性こそが、がんが厄介な病気であることの根本原因になっているというわけです。
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