がん医療を拓く⑧ 血液診断めざし進む研究開発
がんの検査で最も確実なのは、病変そのものを採ってきて顕微鏡で直に見る「生検」で、確定診断を得るために必須となっています。ただし、部位によっては、採取自体が手術と変わらない程の侵襲となることもあります。
このため、抗がん剤などの治療効果を見るため、あるいは進行具合を見るためといった理由で機動的に頻繁に生検を行うことは不可能で、そういう用途には、画像や腫瘍マーカーが用いられています。
画像では、腫瘍の大きさは分かっても、その中の細胞の性質までは分かりません。また腫瘍マーカーは、がんに多く存在する特定の物質量を尿中や血中から量るものですが、個人差や体調の影響を受けやすく、確実性に欠けます。
もし尿や血液など容易に採取できるもので、がんの状態や性質を確実に確認することができれば、がん治療は大きく進歩する可能性があります。がん検診がもっと手軽になり、早期発見が増えることにもつながるかもしれません。
先行するCTC
こうした検査指標としての可能性を秘めた血中物質として世界の研究者たちが研究開発競争を繰り広げている一つが「血中循環がん細胞」(CTC)です。
成長して血管内に侵入したがんは、その一部が血流に乗って運ばれ、遠隔転移を起こします。CTCは、その血中を運ばれているがん細胞のことです。その存在を検査で確認できれば、当然、体内にがんがあると判断できるわけです。
ただしCTCは、転移があるような進行がんでも血液10ml当たりわずか数個~数十個しか含まれず、その数十万~数千万倍もの数が存在する白血球と見た目がよく似ています。そこで近年、上皮細胞※やがん細胞に特異的に存在する抗原を使ってCTCを回収する検査機器が開発され、乳がんや前立腺がん、大腸がんの症例について、FDA(米国食品医薬品局)の承認を得ています。
しかしながら、この機器は非常に高価である上、CTCか否かの最終的な判断は、人が顕微鏡で外見などを確認しなければならない仕組みです。低侵襲ではあっても、やはり機動的に使うというわけにはいかなそうです。
もっと低コストで手間のかからない方法はないか――。がん研究会がん研究所の芝清隆部長率いる蛋白創製研究部では、「エクソソーム」を使った診断機器の研究に乗り出しています。
※表皮や粘膜、内分泌腺、外分泌腺を構成する細胞の総称。がんの大半は上皮細胞由来で、血液細胞とは異なる。