認知症を知る20 早期発見をめざし進化する画像診断
発症するMCI どう見つけるか
ここからは国立長寿医療研究センター・脳機能画像診断開発部の伊藤健吾部長の解説に従って話を進めていきます。
疾患修飾性治療薬が開発された場合に、最初に主な治療対象になると想定されるのはMCIです。MCIと診断された患者さんを追跡したところ、1年あたり約12%、6年間で約80%が認知症に移行(コンバートと言います)したとの報告もあります。コンバート率を薬によって低くできれば、社会全体にとって大きな福音となります。
一方でMCIと診断されたけれどコンバートしない人、後日の評価で知的に正常と判定される(リバージョンと言います)人もいて、このような恐らくADではないであろう人を間違って治療対象としない(どんな医療行為にもリスクがあります)ため、認知症を発症するMCIを客観的に精度高く見分けることも求められています。
現在の画像検査
現在、認知症診断に用いることが健康保険で認められている画像検査は、CT、MRI、脳血流SPECTの3種類です。
皆さんにもおなじみのCTとMRIでは脳の形や大きさが分かります。MRIの方が精度は高いです。ADNIの結果をまとめたところ、MRI画像に基づいてMCIからコンバートすると正しく予測された人の割合は約60%でした。
SPECTは、ごく微量の放射性物質を含む薬を静脈注射し、その薬剤の分布状態を体の外側からカメラに写す検査です。血流の豊富な部分ほど多くの薬剤が到達するので濃く映り、血流が少ないと薄く映ります。脳機能が低下すれば血流も減るため、頭を写すと、脳血流が低下しているか、また、どの部分の血流が低下しているかを調べることができます。一般には、どの原因疾病による認知症かを見分けるのに有効です。
世界の論文をまとめた結果、脳血流SPECTによるMCIからのコンバート予測は、感度84%、特異度70%(コラム参照)だったという報告があります。しかし、日本で行われた多施設共同研究「J-COSMIC」では感度76%、特異度39%という結果になりました。早期治療対象のMCIを精度高く見分けるのには、問題がありそうです。
近未来の画像検査
ここからは、まだ認知症診断に保険が適用されていない画像検査です。
SPECTより精度高く脳機能を調べることのできる検査として、糖代謝FDG-PETというものがあります。MCIからのコンバート予測について、世界の論文をまとめると感度79%、特異度89%となりましたが、やはり日本の多施設共同研究「SEAD-J」では感度95%、特異度47%と特異度が落ちたため、AD-tsum法というデータ処理を行ったところ感度73%、特異度88%となりました。
アミロイドPETは、前項で触れたADNIなどで研究が進められています。アミロイドにくっつく試薬は何種類もあり、今後どれが良いのか比較検討されることになります。先行して用いられていたピッツバーグ化合物B(PiB)という試薬でのMCIからのコンバート予測は、感度94%、特異度56%という報告があります。
【伊藤部長提供】PiBを用いて撮られたアミロイドPETの典型画像。上段はAD症例で、前頭葉、側頭葉皮質などにアミロイドが高集積していると分かる。下段の健常高齢者では、白質に非特異的な軽度集積が認められるのみ。
以上、MCIからのコンバート予測の正確さに絞って、どんな画像検査があるか駆け足で見てきました。読んでお分かりのように、どれも一長一短で、まだ決定版と呼べるものはありませんが、心理検査など他の検査を組み合わせることで、より正確に予測できると分かっています。もし検査される立場になったら、色々あって面倒臭いなとは思わず、どんどん診断が正確になっていくのだと前向きに捉えていただければ幸いです。
感度と特異度ある検査で、検出したい対象全体のうち正しく陽性と判定された割合を「感度」、検出対象外のものが正しく陰性と判定された割合を「特異度」と言います=図参照。
両方とも100%なら理想的ですが、一般的には、感度を上げようとすると特異度が下がり、特異度を上げようとすると感度は下がるという関係にあります。両方のバランスを見ながら、適当な境界線を定めます。
検出すべき対象だったのに陽性と出なかったものを「偽陰性」、逆に陽性と判定されたけれど検出すべきでなかったものを「偽陽性」と言います。