フォーラム「口から考える、認知症」 愛知で開催しました~ハート・リング通信㉛
ハート・リング運動専務理事 早田雅美
歯の衛生週間だった6月5日(日)、名古屋商工会議所大ホールでフォーラムを開催し、500名を超える皆さんにお越しいただきました。
脳の問題として考えがちな認知症ですが、実は歯や口の働きとも大きく関係があります。認知症が進行してしまうと、容易に歯科治療ができなくなってしまい咀嚼(かむこと)や嚥下のみこむこと)などのQOL維持に悪影響を与えてしまう可能性については、かねてからお伝えしてきた通りです。
加えて今回のフォーラムでは、まず神奈川歯科大学大学院歯学研究科口腔科学講座山本龍生教授より、認知症そのものの発症に歯や義歯の残存数が関わっている可能性があると発表されました。愛知県知多半島の65歳以上4425名の健康な方を4年間追跡、分析した結果、分かったことだそうです。年齢や疾患の有無、生活習慣等に関係なく、自分の歯が20本以上ある人に対して、歯がほとんどなく義歯も未使用の人は、認知症の発症リスクが1.85倍も高くなり、歯はなくても義歯を入れていればリスクが1.09まで下がるとのこと。歯を失うと生野菜などを避けるためにビタミン類が欠乏し、軟らかい食事ばかりで咀嚼が減って脳への刺激がなくなることが関係している、と思われるということでした。
次いで新潟大学大学院医歯学総合研究科・摂食環境制御学講座・口腔生理学分野の山村健介教授からは、「脳を使う咀嚼法」と題して、便利で時間もかからない現代食生活に警笛が鳴らされました。弥生時代の食事を再現すると、完食までの咀嚼回数が約4千回必要なのに対して、現代食はわずか620回程度、その分咀嚼機能も衰えます。食欲に始まり、食物を認知して口に運び、咀嚼して味わい、嚥下して満足感を得るという「口からものを食べる」一連の行動には、運動制御、感覚認知、精神活動など動物性機能のすべてが関わっており、食物の舌触りや温度、味覚などの刺激を認知することで脳の動きは活発になります。鮮明な記憶として残る食事経験を積み重ねることは、認知機能を鍛えることにもなるとのことでした。
最後に医療法人社団福寿会福岡クリニックの管理栄養士、中村育子先生から、在宅高齢者の多くが栄養状態に問題を抱えているとの報告をいただきました。特に認知症の方は、自分の意思を表現することが難しいので、もし食が細い場合には、食べる物と食べない物は何か、歯や歯茎を痛がる様子はないか、飲み込みに問題はないかなど、食べ方をよく観察し、原因を見つけることが大切。認知症患者さんを自宅で介護するご家族の方は、独りで悩まず専門職に相談してほしいというお話でした。