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認知症の祖母からの"贈り物"--ハート・リング運動への投書から~ハート・リング通信㉜

ハート・リング運動専務理事 早田雅美
今回は、お手紙をご紹介します。


 私は、今年短大に入学した学生です。5月に母方の祖母を亡くしました。私が両親と住んでいる家と祖母の住んでいた家は電車とバスを乗り継いで1時間半ほどの距離にあります。私が中学生だった頃までは子ども好きだった祖父も存命でしたので、年に何度かは従姉妹などと祖父母の家に集まったりして比較的にぎやかに過ごしていましたが、祖母一人になってからは、何となく足が遠のいてしまっていました。(中略)

 去年の夏、叔母から祖母が認知症で、それもかなり重いと電話をもらいました。(中略)それ以来部活の忙しい時期を除いて、高校の帰りに祖母の家に回って帰ることが多くなりました。

 きれい好きだった祖母の家は、散らかっていて非衛生なことも確かによくありました。でもこの放課後の祖母との対話の時間の中で私はいくつもの発見をすることになりました。祖母が『宝物』だと見せてくれたものは、何と母が子ども時代に描いた下手なクレヨンの両親の似顔絵や夏休みの作文や子ども時代の母と叔母の写真でした。幾重にも箱にしまって、そんなものを祖母はずっと大切にしていたんだ......。

 祖母が昔生け花の先生をしていたことも実は初めて聞きました。生け花のことなど私には皆目分かりませんでしたが、ある時祖母の車いすを押して一緒に近くの花屋さんへ行き、祖母が選んだいくつかの花と花を挿す剣山を買いました。ハサミを持たせるのは危ないと叔母は言いましたが、私が付いているからと説得しました。初めて見る祖母の手際のよさ、花が活き返るように世界を作ってゆきます。それからというもの祖母と私だけの『生け花教室』が始まりました。祖母が混乱して花どころではない日もありましたし、訪ねてみると誰もいなくて、警察にも連絡して叔母と探し回ったこともありました。その時は帰り道が分からなくなって本屋さんの角で動けなくなっているところを発見、思わず祖母を抱きしめてしまいました。どんな人間もやがてこうして歳をとってゆくんだということを、祖母を通じていつしか自然に見つめられるようになっていました。

 今年になって何を食べてもむせ返るようになっていた祖母は、誤嚥性肺炎になって入院した病院で祖父の元へと旅立ってしまいました。わずか1年に満たない時間でしたが、言葉ではなく祖母は私に本当にたくさんの大切なことを教えてくれた、贈り物を残していってくれたと思っています。


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 最近あまりに殺伐としたニュースが多く、気が重くなることもあります。そのような中で、先入観を排除して、人として認知症のお祖母様と触れ合うことができたという今回のお手紙は、私たちが慌ただしく暮らしている毎日の中で忘れてはならない大切な視点を教えてくださっているように思えてなりません。
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