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がん幹細胞を追いかけて② その目印には意味がある


カギは抗酸化力

 CD44vが陽性だと、なぜ転移しやすいのでしょうか。

シスチン取り込み

 永野講師らのグループは、CD44vの発現を抑制した細胞では、細胞内に含まれる「還元型グルタチオン」(GSH)という抗酸化物質の量が著しく低下していることを見出しました。

 「解析を進めたところ、CD44v陽性の細胞では、膜タンパクのシスチン・トランスポーター(xCT)が安定化し、グルタチオン合成の材料であるシスチンというアミノ酸を盛んに取り込むことが分かりました。つまりCD44vの発現が高いと、GSH合成が進み、治療や環境による酸化ストレスへの抵抗性も高まるということになります」

 先ほどの4T1細胞の転移実験でも、肺の転移巣から採った組織を調べると、CD44vの発現が高い転移巣には、GSHも多く含まれていることが分かりました。

 「肺転移巣は、免疫細胞の一つである好中球から活性酸素による攻撃を受けることが、海外の論文で明らかになっています」と永野講師。「つまり、CD44v陽性のがん幹細胞は活性酸素やフリーラジカルに対する防御機構が成立するため、転移が進むと考えられます」
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 ちなみに活性酸素やフリーラジカルは、X線などの放射線照射や抗がん剤治療の際にも、重要な役割を果たしています。抗酸化力が高いのですから、CD44v陽性のがん幹細胞が放射線治療や抗がん剤に対して強いのも道理です。

予後予測に使える?

 さて、CD44vの選択的スプライシング(コラム参照)は「ESRP1」というタンパク質によって制御されていることが知られています。

 ESRP1を高く発現している乳がん患者たちと、そうでない乳がん患者たちを追跡したところ、生存率に差が出たという報告もあります。

 ESRP1の発現量を調べれば、将来の転移や予後を予測きるかもしれないことになります。

選択的スプライシング

 DNA上の遺伝子情報は、「m(メッセンジャー)RNA前駆体」という運び屋が写し取って(転写)から核外へ出て、余分な部分を切り捨て「mRNA」へと再構成された後、タンパク質に翻訳されます。
 この、余分な部分を捨てて再構成する作業を「スプライシング」と呼びます。
 CD44では、この取り除かれる余分な部分の組み合わせが何通りもあります(選択的スプライシング)。その結果、最も短いCD44sであれば取り除かれている領域が残ったままのCD44vも複数種類あるというわけです。


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