文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

がん幹細胞を追いかけて② その目印には意味がある


既存の薬が効くかもしれない

 CD44v陽性のがん幹細胞の転移を抑え込むことはできないのでしょうか。

 実は、xCTを特異的に阻害できる薬は20年以上も前からあります。抗菌剤と抗炎症剤を合成して作成された「スルファサラジン」という飲み薬で、関節リウマチの薬として開発され、他に潰瘍性大腸炎など炎症性疾患の治療薬としても使われています(コラム)。

 スルファサラジンによってxCTを阻害すれば、シスチンの細胞内への取り込みが減少し、GSHの産生も低下して、細胞内の抗酸化作用は弱まるはず。結果としてがんの増大や転移を抑制することが期待できます。

 このことは、既に動物レベルでなら実証されています。スルファサラジンを与えられた胃がんのマウスでは、がんの成長が大幅に抑えられました。GSHを作る働きを止められたがん幹細胞が、無理やりGSHを作ろうとして栄養を使い続け、自滅していくというのです。乳がんのマウスでは、肺転移を抑えられることも確かめられました。
105-2.4.jpg
 2013年4月からは、永野講師らのチームと国立がん研究センター東病院と共同で、抗がん剤等が効かなくなった進行胃がん患者にスルファサラジンを投与し、安全性を確かめる医師主導の第Ⅰ相臨床試験が始まっています。

 「実は臨床試験と併せてCD44vが発現しているがん幹細胞について検討も行い、既にいくつかの症例でがん幹細胞の減少を確認できています。その他のがん腫についても今後、臨床試験が行われる予定です」(永野講師)

 抗がん剤や放射線が効かず、再発や転移の元凶であるがん幹細胞。そこを狙って封じ込め、がんの根治をめざせる薬の実現が近づいているのかもしれません。

なぜ「一薬二役」?

 抗炎症作用は、腸内で代謝されたスルファサラジンの分解産物によるものです。元々、抗炎症剤は胃で溶けやすい性質を持ちますが、スルファサラジンは抗炎症剤に抗菌剤を合成したことで、胃で溶けにくく腸で溶けやすい性質を持つようになりました。抗炎症成分が腸に直接作用するため、炎症性腸疾患に主に使用されるようになっています。
 一方、xCT阻害作用は、腸での分解を免れて体内に吸収されたスルファサラジンのみが持っています。

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ