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がん医療を拓く⑭ 難治にさせる理由 探して遺伝子解析


比べれば見えるかも

 今回のプロジェクト、実は検体に大きな特徴があります。以下のような集団から、それぞれ25人分ずつを目標に検体を採取し解析しているのです。

① 大腸がんが肝転移のみした人の、正常細胞、原発巣の細胞、肝転移巣の細胞
② 大腸がんが肝転移と肺転移と両方した人の、正常細胞、原発巣の細胞、肝転移巣の細胞、肺転移巣の細胞
③ 大腸がんが肺転移のみした人の正常細胞、原発巣の細胞、肺転移巣の細胞
④ 手術後5年間転移も再発もしなかった人の正常細胞と原発巣の細胞
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同一人物での比較

 「このプロジェクトが画期的なのは、同一人物の原発巣と転移巣を比較する点です」と同病院消化器外科の長山聡医長は話します。

 というのも、原発巣と転移では細胞の性質が異なることも多いからです。例えば原発巣には有効だった薬が転移巣には効かないことも珍しくありません。このように性質が違うのは、遺伝子レベルで差異が生じているからの可能性があります。逆に、そのような遺伝子レベルの差異が生じたからこそ、転移するのかもしれません。

 両者で何が違うのか比較したら、極めて大事な差異を見つけられる可能性もあるわけです。そして、この比較を同一人物の細胞で行うことに大きな意味があります。

 「大腸がんの転移自体は珍しくありませんから、原発巣と転移巣を比較する論文も、たくさん出ています。ただし原発巣と転移巣の検体は別々に集められたものなので、差異の中に個体差のノイズも含んでしまっており、原発巣と転移巣の微細な差異を検出することが難しいのです」

 同病院では、年間600症例以上の初発原発性大腸がんの手術を行っている一方で、転移性肝がんの手術も年間約140症例は行っています。これら切除した多くのがん検体を継続的に凍結保存しているため、大腸と肝臓を同時に手術した場合だけでなく、大腸手術の数年後に肝転移が見つかって手術した場合も、同じ患者の原発巣と転移巣の両方のがん検体を入手することができ、解析・比較できるのです。これによって解析の際のノイズが大幅に減ると期待されます。

 重要そうな変異が見つかった場合には、再度、その遺伝子に限って重点的にシーケンサーにかけたり、エピゲノム解析(コラム参照)や「トランスクリプトーム」解析(コラム参照)も行ったりする計画です。

エピゲノム解析 106-2.3.jpg  DNAの塩基配列を変えることなく遺伝子の働きを決める様々な仕組みをエピジェネティクスと呼び、その情報の集まりがエピゲノムです。この十数年で、DNA変異だけでなくエピジェネティックな異常が、がんに深く関与していると分かってきました。  エピゲノム解析の代表例は、「DNAメチル化解析」でしょう。DNAメチル化とは、遺伝子発現のオン・オフを決める部分のうち特定の塩基配列にメチル基と呼ばれる分子が複数取り付くと、その遺伝子はオフのまま発現できなくなる、という現象です。細胞の種類を決め、複雑な生物の体を正確に形づくるのに必須の仕組みで、また父親由来の遺伝子と母親由来の遺伝子のどちらを発現させるか決めている仕組みでもあります。


トランスクリプトーム解析

 トランスクリプトームとは遺伝子の情報に基づく転写産物(RNA)すべてを指します。この量を調べます。もしメチル化が進んでいれば遺伝子発現スイッチがオフの部分が増え、転写が減るためトランスクリプトームも減るはずです。トランスクリプトームを調べることで、メチル化の進み具合を推測できるのです。


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