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 お菓子売場では近頃、「乳酸菌入り」を謳った商品が目に付くようになりました。中には「こんなものにまで」と思うものも。乳酸菌を正しく知り、賢く活用するための3回シリーズです。
文・堀米香奈子 本誌専任編集委員。米ミシガン大学大学院環境学修士
腸内でヒトと共生

 乳酸菌がもてはやされている背景には、医学界での腸内フローラ(腸内細菌叢、フローラは英語で「お花畑」の意)への注目の高まりがあります。

 ヒトの腸内には、1000種類、100個とも言われる細菌が棲みつき、共生していています。この細菌の集合体が、腸内フローラです。

 近年、技術の進歩に伴い、腸内フローラの解析も進みました。そうして分かってきたことは、適切な腸内フローラは、単にお通じを良くするだけでなく、全身の健康に直結する、ということです。

 健康な人ほど腸内細菌の多様性が高いとされ、一方で炎症性腸疾患の他、肥満や生活習慣病、アレルギーや自己免疫疾患、喘息などでも、腸内フローラの乱れや多様性の減少が指摘されています。

 また逆に、難治性の炎症性腸疾患では、健常人の糞便を移植して腸内フローラを適正化する治療法が、再発抑制効果で注目されています。

プロバイオティクス?
 
 そこで数年前にブームになったのが、「プロバイオティクス」です。生きたまま腸に届く善玉菌(ヒトの健康に役立つ腸内細菌全般の俗称)やそれを含む食品のこと。「腸内環境を改善し、おなかの調子を整える」効果の認められた菌種を使った、トクホ(特定保健用食品)のヨーグルトもたくさんありますよね。

 善玉菌の代表格が、乳酸菌とビフィズス菌です。乳酸菌は、乳酸を作り出す細菌の総称。ビフィズス菌は乳酸の他、より殺菌作用の強い酢酸などを作り出します。

 実は、大腸の善玉菌の99.9%はビフィズス菌。ただ、加齢と共に減少し、悪玉菌(腸内環境を悪化させる細菌)が増えてしまいます。

 実験では、生きて腸に届くある種のビフィズス菌を摂取したところ、酢酸の作用により内臓脂肪が減少し、血糖値も正常化。メタボリックシンドロームの抑制が確認されました。他の菌種でも、アトピー性皮膚炎の軽減やスギ花粉症の予防・緩和といった抗アレルギー効果や、炎症抑制効果なども報告されています。

 一方の乳酸菌は、小腸では中心的な細菌ながら、大腸ではすべて合わせても0.1%。とはいえ、カゼイ菌やガセリ菌など、生きて腸に届く乳酸菌の摂取でも、整腸はもちろん、アレルギー低減、インフルエンザ感染予防、胃内ピロリ菌、内臓脂肪の減少、炎症抑制など、ビフィズス菌以上に多様な健康効果が報告されています。 

 ところが新たな疑問が一つ。最近よく見かける乳酸菌配合のお菓子の多くは、プロバイオティクスではなさそうです。どういうことでしょう? 

「殺菌乳酸菌」

 元々、善玉菌のほとんどは、口から摂取しても、腸に到達する前に胃酸で死滅してしまいます。そこでプロバイオティクス食品では、胃酸に強い善玉菌や、菌を守るカプセルを使います。ただ、苦労して腸に届けたプロバイオティクスの効果は認められても、菌自体はそのまま排泄されてしまうことが分かっています。

 一方、死菌(死んだ菌体)の摂取でも整腸効果が報告されていますし、マウス実験では延命効果も確認されました。

 要するに外から摂取した善玉菌は、生きていても腸に定着せず、死んでいても一定の健康効果が期待できるのです。

 死菌でよければ、温度や水分量などの条件を気にせず、チョコレートでもグミキャンディーでも、その他どんなお菓子にも加えられ、しかも感染症予防など乳酸菌の効果を売りにできます(法に触れない表現の範囲で、ですが)。

 原材料としても製品の状態でも、製造から販売まで終始、扱いが楽。プロバイオティクスと違って温度や賞味期限などの管理が厳しくない分、コストに跳ね返ることもありません。なお、「殺菌乳酸菌」と表示している商品もありますが、「殺菌力のある乳酸菌」という意味ではありません!
 こうして、乳酸菌入りを付加価値としたお菓子が続々登場している、というわけです。

最大の免疫器官

 死菌でも健康効果を発揮するのは、腸がヒト最大の免疫器官であることに関係します。

 そもそも腸管内は、ヒトの体にとって「内なる外」。人体が〝ちくわ〟とすれば、口~消化管(腸管)~肛門にあたるのが、真ん中の穴。穴の中は外界ですよね。

 つまり腸管は、口から摂取した栄養が、本当の意味で体内に入る境界であり、同時に異物や病原体を取り込む危険にさらされた場所なのです。

 そのため腸管には、全身の免疫細胞と抗体のおよそ60%が存在すると言われます(コラム)。その機能を支えているのが腸内フローラなのです。

 腸内細菌は、腸内部の大部分を覆い、外から来た有害菌の増殖を抑制することで、感染予防に大きく貢献しています。菌種によっては腸管の細胞の免疫反応を正常化し、自己免疫疾患やアレルギー反応を抑えます。また、腸内細菌の代謝物は腸管細胞の栄養となり、バリア機能を高めます。

 その際に腸管の免疫細胞は、腸内細菌を、その特定部位の形状パターンで認識します。パズルで言えば、免疫細胞側にざっくりとした凹部分が何種類かあり、細菌の凸部分が上手いことそこにはまると認識されるイメージです。

 ですから善玉菌のパターン形状が維持されている限り、免疫細胞に認識されて適切な刺激を与え、健康効果を発揮すると考えられています。
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