文字の大きさ

過去記事検索

情報はすべてロハス・メディカル本誌発行時点のものを掲載しております。
特に監修者の肩書などは、変わっている可能性があります。

笑わない人ほど不健康~それって本当?

「笑う門には福来る」と言いますが、笑わない人ほど健康とは縁遠いことが全国調査で明らかになりました。
専任編集委員 堀米香奈子(米ミシガン大学環境学修士)
 2015年10月、笑いが高齢者の健康に関わっている可能性を示唆する研究が報告されました。全国の自治体の協力を得て65歳以上の高齢者約2万400人を対象とした調査の結果、笑う頻度が最も少ない人たちは、ほぼ毎日笑う人たちに比べて「健康感が低い」と自己評価する割合が、女性で約1.78倍、男性で1.54倍高いことが明らかになったのです。

 論文の著者の一人、東京大学大学院医学系研究科の近藤尚己准教授は、「この研究は、あくまで笑う頻度の低さと健康感の低さに正の関係があることを示したもの」としながらも、「少なくとも先行研究では、現在の健康感が将来の寿命を反映することが分かっています」と話します。要するに、今自分が健康だと感じているかどうかは、それだけで死亡の予測材料として機能するというのです。

 なお、右の数字は、社会参加状況や経済状態の影響を差し引いて調整してあります。社会参加が少なく社会経済状況が悪い人ほど、笑いの頻度や質が低い傾向が見られたためです。

 近藤准教授は、「一般に、収入が多かったり人との交流が多かったりするほど笑う機会や頻度に恵まれます。そこを調整しなければ、単に高収入でコミュニティ参加に積極的な人ほど健康、という結論になってしまいます」と説明します。

 また分析は、学歴や長く従事していた職業で参加者を分類した上で行われました。「社会的地位は健康リテラシーに直結する傾向があります。自らの得た健康情報をきちんと理解して役立てられるかどうかで、笑いとは別のところで健康状態に違いが出る可能性があるのです」

 うつ状態(気分の落ち込み)についても、分析に調整が加えられました。うつも笑いとは別に、それだけで健康感を下げてしまっていたからです。

 そうした調整を経て導き出された先の数字は、より純粋に、笑いと健康の関係を示す一つの事実と考えられます。

健康効果は未解明

 これまでにも、笑いと健康や疾病についての研究は少なからず行われてきました。

 笑いの身体的な効果として、関節リウマチの改善、免疫細胞(NK細胞)の活性化、アトピー性皮膚炎の改善、自律神経系への影響、食後血糖値の上昇抑制などが報告されています。ただしいずれも調査対象者数が多くても30人未満、少ないと10人以下で、さらに笑いを引き出す手段がお笑いビデオであったり寄席であったりとまちまちで、エビデンスとしては不充分という状況があります。

 同じく精神的な効果としても、自己や他者を励まし、許し、心を落ち着けるようなユーモアには、抑うつ状態の改善や予防の効果が複数報告されています。作り笑いであっても笑顔にはストレス軽減効果があるという研究もあります。ただしこれらも対象者数が充分でなく、医学的に確立した事実とは言えません。

 「だからこそ今回の調査を実施したのです」と近藤准教授。「笑うことが健康に繋がるかは、長期にわたって追跡調査する必要があります。既に来年には今回と同様の調査を予定していますし、合計3~5回、およそ10~15年は継続する考えです。その上で死因データなどと照らし合わせて、病気や死亡と笑いの関係をより明らかにしていきたい」と意気込みを示します。

 なお近藤准教授は、一人でテレビの娯楽番組などを見て笑うより、人と一緒に笑う機会を持つ方が、健康への影響が大きいのではと見ています。自身の別の研究で、「高齢者が地域サロンに参加すると要介護になるリスクが半分になる」という結果が出ていることも、背景にあります。「笑いの機会に関する研究を進めることで、ゆくゆくは地域コミュニティや集いの場など、街づくり政策に活かしていく予定です」

  • MRICメールマガジンby医療ガバナンス学会
掲載号別アーカイブ