ビジョン具体化検討会3
外では割れ鐘のような雷鳴が轟いていて
時折、会議室の蛍光灯が勝手に消える
そんなちょっとホラーチックな第3回会議。
あらかじめ書いておくと
相変わらず面白かったけれど特に何かが決まったわけではない。
報告に入ろう。
午前10時半開会。大臣は閣議が長引いたとかで1時間ほど遅刻。
小川委員が欠席。
副大臣と政務官は内閣改造に伴い交代。政治家が誰もいない中で淡々と始まる。
例によって資料が大量に出ているので、それは厚労省のサイトで後日見てほしい。
今回は参考人が2人来ていた。メンツは、こちらをご参照あれ。
高久
「今回は2人の方からお話をいただいて救急を含む地域医療について議論したい。時間があれば前回の問題、さらに時間があれば次回議題にする予定のコメディカルの問題についても議論したい。2人のお話を伺う前に海野委員から今まで2回の論点整理をしたものについて説明していただく。この点について議論すると時間がなくなっちゃうので、座長の独断だが簡単に説明してもらう」
海野
「過去2回、難しい議論をしてきた。そんな中でコンセンサスを得たと言えるであろうものを個人的に整理してみた。大きく分けて医師の数の問題と研修の問題があったと思う。まず医師数。(ア)(イ)(ウ)は基本的データ。(エ)で、医師数増加が必要ということは一致したであろう、と。(オ)は具体的な増加方法について、10年程度医師養成数を増加させ、その後需要の減少に合わせて減らして現状程度まで戻していくということで全体として意見の一致を見たのでないか。(カ)は前回嘉山先生から2400億円という数字が出されて難しい印象を与えたところがあると思うがその根拠となるものを試算し直してみた。年400人ずつ養成数を増やして4000人増えた段階で国費負担を1人1千万円とすると2400億円になる。それから医師養成数は変動があることから、できるなら既存の機関の定員を増やすことで対応するということもほぼ一致しただろう。次に研修について。土屋委員から、医師養成制度のあり方について専門家としての責任において、自律的に検討する研究班を作ってはどうかという提案があり、早く作った方がよかろうということも一致したと思う。以上だ」
高久
「このことについては時間があった時にご議論いただきたい。では、まず事務局から資料の説明を」
なんだ結局事務局の説明があって、また水増しになるのか、と思ったが、今回はあっという間に説明が終わった。
高久
「では参考人のお2人に10分くらいでお話をいただきたい」
葛西龍樹・福島県立医科大学教授(地域・家庭医療部)
「まず自分がどのような人間か。最初から家庭医になるつもりだったけれど、そういう研修がないのでまず小児科に入局して、その後カナダで家庭医のトレーニングを受けた。戻ってきて大学勤務を経て、96年に北海道に『北海道家庭医療学センター』を創設し日本で初めて家庭医の養成システムを構築した。10年間所長を務めたが、私のいる間に16人育成した。この会議の前の会議の参考人として話をした草場鉄舟君もその3期生だ。2年前に福島県立医科大へ移って、県内に広がる広域家庭医養成システムを構築したところだ。
さて家庭医療とは何か一般の人にも分かるように定義してみると、以下のようになる。『どのような問題にもすぐ対応し、家族と地域の広がりの中で、疾患の背景にある問題を重視しながら、病気を持つひとを人間として理解し、からだとこころをバランスよくケアし、利用者との継続したパートナーシップを築き、そのケアに関わる多くの人と協力して、地域の健康ネットワークを創り、十分な説明と情報の提供を行うことに責任を持つ、家庭医によって提供される、医療サービスです』。ただし、質をどのように担保するかが注意しているところである。家庭医療は質を高く提供するのは非常に困難であるが、質を低く提供するのは実に簡単であると皮肉った論文もあるくらいだ。
では家庭医とは何かということになると、『健康問題や病気の8割を占める日常よく遭遇する状態を適切にケアすることができ、各科専門医やケアに関わる人々と連携し、患者の気持ち、家族の事情、地域の特性を考慮した、エビデンスに基づく患者中心の医療を実践できる医師』ということになる。エビデンスというのは、家庭医療によって患者の満足度や健康度が上昇する、そういうエビデンスがある。そして家庭医療に関しては多くの先進国で医療制度上も医学教育制度上も確立している専門分野である。
私が考えるに、家庭医と各科専門医の2種類の医師がいて連携すればよい。救急も、まずは家庭医が診て救急の専門医と連携することになる。きちんと質の高い家庭医が各科専門医の総数と同じくらいの数いたとすると、ヘルスケア要求の90%には有効・安全に対応できるとか、コストを減らせるとか、病院とスペシャリストが必須の仕事に専念でき、患者の満足度も上がるし、健康についての不平等が改善し、医療者にとってもサイエンスとアートのバランスが取れるということが、家庭医療先進国では示されている。
ここからは私の考えだが、質の高いレベルで教育された家庭医がいるという前提に立つと、日本でも、住民の受療パターンが改善し賢い『コンビニ受診』が普及する、コンビニ受診をダメだと言うのではなく、患者は不安に思っているわけだから、その時にコンビニエントに家庭医が一緒に考えてあげればよい、そういうことが期待できる。そうなると病院勤務医のQOLが向上し立ち去り型開業が減るだろうし、家庭医がきちんと診ていれば基幹病院の専門医は専門分野だけに集中できて専門医療の質が上がるだろうし少々数が少なくても何とか回るのでないか。家庭医は費用対効果の良い効率的なケアを提供できるので、無駄な医療が減少する効果も期待できる。長寿医療、予防、在宅医療のマンパワー確保にもなるし、医学部の定員を増やして『地域医療枠』を設ける動きが始まっているが、その医学生に対してキャリアパスを提示することもできる。
最後に提言をしたい。都道府県単位以上の広域に及ぶ公益性の高いシステムを構築して、家庭医と家庭医療指導医を多数養成すること。家庭医療学会でも70ほど後期研修プログラムができあがっているが、福島県を除くと、1施設だけでやっているものがほとんどだ。広域にシステムを構築する際には、大学、医療機関、住民、行政、医師会の協働ができる先進モデルを核とする必要がある。そして質の高い家庭医の教育・評価・認定システム構築を支援していただきたい。地域で頑張っている医師が報われる政策を期待する」
有賀徹・昭和大学医学部教授(救急医学講座主任)
「平たく言うと地域医療は患者数、救急搬送数が呪縛になっている。数をどのようにコントロールし得るかということを一点目に述べたい。東京でもいろいろ議論してきた。それから先ほど事務局の説明した資料で気になるところがあったので、これは指摘しておいた方がよいと思うので、後で述べる。それから江戸川区医師会の岸本先生から『私は体調が悪くて出られないけれど代わりによろしく頼む』と言われたので、岸本先生が出した資料について述べる。以上3点。
まず一点目。東京では救急搬送が年に60何万件かあるのだけれど、白い救急車が足りなくて、赤い消防車が先に行って処置して、白い車が空いたら向かうというようなことが1日に230件もある。大変なことが都市部で起きていることをご認識いただきたい。そこで東京では、通信司令室の一部で本当に救急搬送の必要があるのかプロトコールに従ってトリアージする電話相談事業を始めた。資料にもつけたように順に質問して行って赤に該当したら、すぐ救急隊を向かわせる。黄色を通り越して緑だったら自分で病院に行きなさいとか朝になってから行きなさいとかオリエンテーションするようになっている。それと同時に救急隊が現場でもトリアージすることを始めていて、あまりに軽症である場合には、『あなたは本来救急搬送の対症ではないが、呼ばれて我々はここにいるので、どうしてもというなら運ぶがどうするか』と尋ねるようにした。そうすると100のうち60位は、分かったと言ってくれる。というのが、交通事故で警官がとりあえず救急車を呼んでしまうというのも多くて、そういう場合は本人も救急車を呼んじゃったの?とビックリしている。全部が全部、返してくれないのは、繁華街の酔っ払いなどもいるからで、そういうのは仕方ないから運んでいる。このように現場で断るのだけだと、しかし電話した時には分からなかったという人は残るので、だから電話相談も同時に始めた。
この取組は都消防庁、医師会、救急学会の連合軍でやっている。頭の中では、このルールそのものが病院でも使えるのでないかと思っている。成育医療センターと武蔵野赤十字では以前から外来でのトリアージを行っている。しかし、そのトリアージのルールを他の施設に使わせて間違いがあったらイヤだということで逡巡している。よこせと言っても、何かあったら困るので勘弁してくれと言われている。そういうことが、この間ずっとあった。しかし都消防庁がルールを作れば、それを病院で実際に目の前にいる患者さんの血圧や脈を測りながら病院ごとに基準でトリアージすることが可能だと思う。プロトコールは100以上になって、かつ日々バージョンアップされている。電話相談ではナースが日に80件やっている。
武蔵野日赤の人の発表を資料として付けた。武蔵野日赤では救急外来に1日100件来る。救急車で搬送された人以外は来た順番に診ていたのだが、それで急変する人もいる。そこでトリアージルールを作って、緊急度の高い患者さんの診療を早くするようにした。したところ、待ち時間に関する患者のクレームが激減した。ナースが最初に対応して、あなたは待っててねと言われた場合、それなりの理由があるのだろうということで納得して待っててくれている。それから看護師たちの職の満足度が上がった。それまでは救急外来は嫌という人が多かったのだが、それが改善された。今のところ迷いながらやっているのだけれど、そこにガイドラインができるといいなということだった。それが昨年12月の段階。小児についても、お母さん方が自分たちで救急受診すべきかどうか、それこそ家庭医がいなかったとしても電話相談できれば、そのルールで行った先ではそれなりにトリアージできるのでないか。
二点目の事務局資料の件。多摩が先進的事例として挙げられているが、多摩は急性期病床に対して回復期病床がかなりあって熊本に似ている。事情をある程度知った人たちは、首都圏一般に関しては病床の比率が全然違うから熊本など見ても仕方ないという意見がもっぱらだ。地域的な問題があるので、その点をぜひ配慮いただきたい。それから東京で起きているのは出口が足りないという風に書いてあるが、入口の部分にも問題はある。満床、処置中、手に負えないという理由で受け入れ困難、悪い表現で言うと『たらい回し』になるわけだが、医学的な観点からいったん引き取って手術が可能になったら手術できる所へ運ぶというようなこともしてはいるのだが、そうではなく目立つ理由が『吹き溜まり』で、というものだ。ずっと一人暮らしの結核患者がどうにもならなくなって救急車を呼ぶ、そうすると結核の病院は夜は空いてない。それにお金が払えないというような人も運ばれてきて、受け入れ先が見つからない。救急患者受け入れコーディネーターは、福祉、行政の問題も加味してコーディネートする必要がある。社会的弱者が、どうしようもなくなって最後についに救急車を呼んでいるという状況があるので、そこへどう対応するのかぜひ心づもりをお願いしたい。入口にもそういう問題があることを知っていてほしい。
最後は、岸本先生の資料。中小病院は、三次救急施設で急性期を終わった亜急性期の慢性期ではない患者さんを受けている。三次救急がパンパンになった時には地域の中小病院が支えている、三次のサポーターをしているということだ。二次救急に関しても、今となってはガラス細工のようになっているので、支援をお願いしたい。コメディカルの絶対数も不足していて、中小病院の経営は危機的状況であり、これらの病院がなくなると初期救急をやっている先生方もお手上げになる。この問題では、地域社会のあり方そのものが問われている。
東京消防庁と話していて、つくづく感じるのは、ドクターヘリを厚生労働省が積極的に展開してくださっているわけだが、まだ13県14機。それで大体年に1機あたり400回くらい飛んでいる。東京では消防ヘリがドクターヘリのように飛ぶルールになっている。消防と医療との連携の中で、多くの都道府県が従前のヘリを使って一定程度できるのでないかと思う。消防ヘリも5割は救助でさらに半分にはドクターが乗っている。地域の実状に合わせて上手に組み込めるよう、ぜひ厚生労働省も横でにらみながら総務省に声をかけながら頑張っていただきたい」
高久
「では地域医療について議論したい。川越委員あまり発言されてないので、どうぞ」
川越
「なかなかしゃべれずにいた。私の話はセコいので、こういう場には適さないのでないかとは思いながら話をさせてもらう。一言で言うと、病院の先生方は在宅の実情をあまり知らないと思う。たとえば在宅でどの位のことができるのかとか、病院だと医療保険一本で済むけれど、在宅の場合介護保険を使う場面が非常に多い。たしかに在宅は問題山積ではあるが、ぜひ実態を知っていただきたいと思って資料を用意した。病院で働く医療者に理解してほしいこと、一般の方に理解してほしいこと、立法・行政への願いを列挙してある。
私の専門は、在宅でがんを診ること。高齢者にとって、年をとって一人暮らしになり病気になっても住み慣れた場所で安心して過ごすことができるかどうかは重大な関心事だと思う。末期がんで行くところがなくなっちゃうというのが現実にある。そういう人の受け皿に在宅医療はなることができる。本当に家で最期まで過ごせるのかは最大の関心事だと思う。私たちが経験した具体的ケースを資料に挙げてある。この方の場合、亡くなってから区役所の人が異体を引き取りに来るまで、ボランティアが付き添った。このように在宅の場合、医療者だけで考えるのでなく、街全体で緩和ケアを考えないといけない。
最後に『家族の介護力が弱く、かつ医療依存度の高い患者が、安心して住み慣れた地域で過ごし続けることを実現するための研究班』設置の要望をしたい。既に色々なやっている所がある。そこをモデルに調査研究していただきたい。ダメだからやっぱり病院を作らないとという結論にするのではなく、現実にやっている所をいかに普遍化していくかの観点が必要だと思う」
高久
「丹生委員もどうぞ」
前回は一言も発言できなかった丹生さんが話し始めたら、写真を撮る人が続出した。話の中身は「守る会」の活動の概要報告。
「『病院へ行く前に』というパンフレットを作ったのは、トリアージしようなんて専門的なことを考えたわけではなく、夜に子供が熱を出したりすると親としては不安なので、つい病院へ駆け込んでしまう。その不安を和らげるために、フローチャートが母親の安心材料になればという気持ちで県立柏原病院の医師の監修を受けて作った。素人判断だけでは危険というのも、もちろん認識はしているが、家にいる段階での一つの判断基準になれたらと思っており、それによって医師の負担軽減になれば嬉しい」
高久
「では、ここからは葛西先生、有賀先生の話に何か質問や意見はないか」
川越
「家庭医養成の講座は過去にもいくつかあったと思うが、あまりうまくいったという話を聞いたことがなく残念に思っている。どうしてうまくいかなかったのか、どこを変えればよいのか伺いたい。せっかく医師を育てても1人で地域に出ていくのはキツイので後のバックアップが大切と思う。自治医大でも同じかもしれないが、未完成の状態で送り出さざるを得ない以上、バックアップがないとせっかく育てた医師が潰れてしまうのでないか。その辺についてもコメントをいただければ」
葛西
「成功しているプログラムは目立たないかもしれない。しかし北海道の10年は外部評価でも成果を上げていることになっているし、その後2年の福島もある。家庭医療学会で後期研修プログラムを70個設定したが、多くが指導医すらよく分かってない状況ではあり、指導医向けのワークショップを年4回開くなど徐々に良くなっている。数年後が楽しみな状況だ。
バックアップの件は、私たちの完成形は4人1組だ。診療所の開業というと1人でというイメージでとらえられがちだが、それでは24時間365日、地域を守ることはできない。だから指導医2人、研修医2人の4人で1組だ。もう少し大きな所では指導医を指導する上級指導医まで加えた8人1組というのも考えている。1人でやるのは質の面から見ても問題なので、我々は複数名配置でプログラムを推進している」
高久
「先生のセンターは函館だったか、室蘭だったか。そうそう室蘭でしたね。後期研修はうまく行っているのだけれど、人数が少ないから知られてないだけだろう。うまく行っていると思う。
自治医大に関しては、初期研修の段階から研修病院にお願いして特別のプログラムにはしてもらっているが、終わった段階で島へ一人でというのも結構ある。それでも結構やっている人はやっている。陽性な人間は自分が支えているんだということで生き生きやっている。しかし陰性の人だと大変だ。それなりのバックアップ体制は取っているが、個人差が非常にある。いずれにしても7年経つとプライマリケアにはかなり強くなる」
岡井
「葛西先生の言われるような家庭医は絶対に不可欠と思う。しかし、認知されていない。そこをしっっかりやらないと、家庭医を希望する若い医師がいても、国の制度として認知してもらってないから二の足を踏んでしまう。吉村先生、専門医資格の中ではどういう方向にあるのか」
吉村
「基本的に総合医と各科基本領域の専門医を認定したい。今は各学会が勝手にやっているので、オーソライズされた何らかの組織で認定する仕組みにする。総合医も認定していかないと、希望する若者は多い、いや少なくないが資格がないのが障害になっている」
岡井
「標榜科にはならないのか」
高久
「それはいろいろな経緯があり、先生のおっしゃる総合医を標榜科とすることについては20年以上前にその当時の厚生省が構想を打ち出したのだけれど強い反対があって消えてしまってそのままになっている。ただし唐沢医師会長が1期目に総合医の認定制を作ろうとして、厚生労働省の方から標榜科にしようという提案が出たところで、また少しガタガタしたというのが現在まで。ただ唐沢先生がもう一期やるので、医師会が総合医認定制度をつくろうとしている。それは家庭医療学会などとの合同の取組だ。ただ、それには小児科学会から早速反対が出て、たしか脳外科学会も反対していなかったか。総合医ができると小児科診療のレベルが下がるということを言う人たちがいて、一部の小児科医に聴くとそんなことはないと言うのだが、しかし学会の中枢レベルの考え方はそういうことだ。私個人としては、どういう形であれ、そのようなパスをつくることは必要だと思っていて、そういう研修をつくることのは議論をしないといけないだろう」
吉村
「標榜診療科は、受け入れる範囲の話なのでそれは構わないと思う。その他にトレーニングの過程を提示する形にしたらどうかということを考えている。総合医というのは、葛西先生や自治医大のように最初から1人で何でもやるという人たちと専門医としての勤務を追えて開業している先生たちにどのようにトレーニングするか、この2種類の人たちをドッキングしなければいけないと思う」
嘉山
「葛西先生はイギリスの家庭医の例を出したが、私も2年前にイギリスに視察に行ったけれど、イギリスの医療はそんなにうまくいっていない現実がある。葛西先生の話では、家庭医と専門医がシームレスにつながるように聞こえるが、実際には壁が非常に高いのでないか。そこに学会が疑義を呈している。それこそ胃癌の手術が6ヵ月待ちのようなことがあるではないか」
葛西
「日本で伝えられているイギリスの情報というのは多くがサッチャー政権時代のもののままで、その後のブレア、ブラウンと改革が続けられてきた情報が入っていない。ぜひとも私の示した文献をお読みいただきたい。
もっと問題を大きくすれば、そもそも医療制度がうまく行っている国などどこにあるのかとも言える。それぞれの国で知恵を出し合って様々に工夫している。個々に何が優れている優れていないではなく、改革努力を続けてきた点は注目してもよいのでないか」
嘉山
「新しいコンセプトを入れる時は、その問題点を明らかにしておかないと、あとで患者さんが被害を受ける。先生そう仰るなら、専門医にシームレスにつなぐ教育をしていただきたい」
葛西
「もちろん、そのように考えている。そもそも先生がご指摘になったのは管理運営的な話であって、それは家庭医療の欠陥を言っているのではない。もちろん教育プログラムをつくるにあたっては、専門医との連携に気を使って、そこに地域性の実情も考慮するようにしている」
嘉山
「大臣にお願いしたい。資料にもつけたのだが、山形大では専門医に総合的な研修を積み直してもらうリフレッシュ研修制度というのをやっているので、こういう所に予算をいただければ。この研修を終われば、安心して離党にも出せる」
舛添
「それにはお金はいくらぐらいかかっている?」
嘉山
「4人で8000万円くらい。でも派遣会社を通じるよりは、はるかに安い」
舛添
「じゃあ、その件は検討させてもらう」
土屋
「岡井先生の家庭医のお話だが、今、持ち出すのはあまり得策ではない。まずは家庭医育成の努力を繰り返して、育った後で後からやる方がいい。ここ数年は嘉山先生からご紹介のあったように各診療科の専門医が診療の幅を広げて、総合医的な機能を担う。1年か2年かそういうつなぎを入れている間に葛西先生たちのような本物の家庭医の育成を進めて、本物の家庭医が育ったところで認定医制を導入するというにすべきだ。
葛西先生が福島県広域でできているのは、私も実際にオペしに行ったことがあるけれど、プログラムに参加している福島の市中病院は隔壁がない。一方で他の多くの大学病院はセクショナリズムで、だから市中病院が隔壁を取ってローテーションできるようにしないと一つのことしかできない医師になる。そういうシステムを作らないと全国規模に広げることはできないだろう」
高久
「後期研修として亀田総合病院などいくつかコースができているので、そういうコースを増やしていくのがよいだろう。認定を出すなら入口だろう。若い人は何だかんだ資格を欲しい人が多い。当たり前の話で何もないとつまらない。アメリカのレジデンシー制を参考に研究して議論していく必要があるだろう。そうしないと永遠に偏在は片付かない。唯一の解決法は後期研修制をどのように作るかだろう」
海野
「地域医療の問題に対する解の一つが家庭医であることは間違いないだろう。しかし、日本の中で地域医療として家庭医を必要としているのが、どの程度あるのか、それは調査が必要だろう。産科と小児科救急に関しては、私の認識では国民のニーズとして、それぞれの科が必要とされているんだと思うし、それぞれの科がプライマリケアを提供していると思う。それに対してどう答えるのか簡単には行かない。
ところで前回、産科に関するインセンティブのお話が大臣からあったので、それに関する具体的なご提案を資料として出した。小児科に関しては、ここに委員がいないので、小児科学会の方々に伺ったうえで作ったものだ」
大熊
「私の出した資料の説明をする。まずは時間外診療が子供に偏っているということ。その結果、病院勤務小児科医の労働条件が大変過酷になっており、小児科学会では地域小児科センター構想を提案している。資料につけたのは新潟県の案だ。問題は、新潟の場合は大学のリーダーシップが強く効いているのだが、往々にして病院の設立主体が異なると連携がうまくいかないので、国からも連携へのインセンティブをつけていただきたい。
最後はおまけとして、医学部の定員を増やす時に授業料の高い所ばかり増えるのでないか心配だと言ったが定性的に言っているだけだと説得力がないので、こんなグラフにしてみた。偏差値は代々木ゼミの数値だ。授業料が安い方が偏差値が高いという、明らかな相関が認められたということだ」
この最後のグラフは非常に面白い。
吉村
「小川委員が欠席なので代わりに資料の説明をすると、要するに私学も頑張っているという話で、決してすぐ開業するわけでもないし、地域医療への貢献もしている」
ただし小川委員の資料は全国29私学のうち11大学のデータに基づいたもので
大熊委員の発言の後だけに、29大学全部でデータを取ったら
違った見え方になるのでないかという疑念は抱かせた。
高久
「せっかく有賀先生もお見えなので救急の話もないか」
嘉山
「国にお願いしたいのは、地域で既にネットワークを作っている。国が実情を反映しないデータで色々なことをされるといっぺんにグチャグチャになる。大熊委員の仰ったようなセンターを国が1カ所指定するなんてことをすると、地域で歴史をかけてできてきたものが一気に壊れてしまう。だからそういうことをするんではなく、地域でいかに有効に税金を活用するかという観点から、地域ごとの実情に合わせた対応ができるようにしてほしい。機械的にやると壊れてしまって二度と戻らない」
高久「日本の救急の中で一番問題は何か。一次なのか二次なのか三次なのか」
有賀「初期、二次、三次というフレームワークは昭和50年代から厚生省が推進してきたもので、当時はそれなりの合理性があって展開していたことは間違いない。家庭医の話とも関連するが、このフレームができた当時は三次救急施設には地域の中で一定の位置づけがあり、そうしたセンター整備の進んだ結果、私も大学の救急部に籍を置いていたが初期のころは社会の認知がなく実にさびしいものだったのが、徐々に盛り上がっていた経緯がある。だからどこが一番問題がないかと言えば、当面は三次機関だろう。とはいえ、初期、二次がグチャグチャになれば三次もあっという間に成り立たなくなるので、どこが問題かといえば連動してあれもこれも全部という話になる。
この枠組みの始まった昭和40年代は、患者は一次の開業医へそれなりに行っていたが、今は一二次へ行っている。その結果、二次施設に来る人で入院する人は10人に1人。小児にいたっては20人に1人だ。初期を飛び越えて病院へ押し寄せているから、勤務医は疲れ果てているし、待ち時間に対するクレームも非常に多い。差し当たってはここが一番の問題だと思う。地域地域すべて色々な景色があるだろうが、二次は全部ガラス細工になっている。地方には地方の都会には都会の問題があり、全部ガラガラポンで作り直すというのなら考えてもいいが、現状救急のシステムが死につつあるので、ちょっとで済ませようとするなら、そうは問屋が卸さないということだ」
川越
「私も墨田区の医師会長に意見を聞いた。三次救急センター、墨田の場合、都立の墨東病院だが、へ全部行っちゃうので、それが崩壊したら大変だということを心配していた。当の墨東病院の浜辺救急部長にも聞いたが、先ほどのお話と同様トリアージ、スクリーニングが重要とのことだった。救急救命センターは生死を争う人のために背水の陣を敷いて待っているわけだが、そこに来なくていい人が来ているという。具体的には多分言ってしまって構わないと思うだが、まずは特別養護老人ホームからの搬送が多いという。特養は病院がバックアップしているはずなのに、その病院が責任を果たしていないじゃないかということだった。それからもう一つはがん専門病院、がんセンターとか癌研とかにかかっていて安心していたら末期になってから、もうここはあなたの来る所じゃないと言われて、そういう人が状態の悪くなった時に救命センターに運ばれてきて、医師の側も疑問を感じつつ挿管したりしているそうだ。そういったものをどうスクリーニングするか。それらの患者は本来二次救急で対応できるはずだが、それもガラス細工になっている現状があり、三次を守るためにも地域の二次救急施設への支援をお願いしたい」
有賀
「せっかくだから申し上げる。今、救命センターへ来るのは救急車100台のうち3台だ。これが4台になっただけで一気に33%の負荷アップになって、30床のセンターが40床分稼働しなければならないということだから、それは呆気なく潰れる。救命センターを潰すのは簡単で、救急車がもう少し行くだけでいい。
救命センターの使命は3つあると思っていて、一つは本来的な意味の医学的に何とか瀬戸際の人を救うということ、次は災害の時、最後が社会の安寧と秩序維持だ。それを断ると地域社会がグチャグチャになっちゃうという人はいる。救命センターの看板で張り切って入ってきた医師たちに、社会の安寧も我々の使命なんだから、そのために頑張ってくれと伝えて、看取りなんかもさせている。社会の吹きだまりの部分を救急部門が引き受けているのだから、救急医療に携わる人間の言う事を真摯に聴いていただかないと、社会不安まで引き起こすことになる」
和田
「基本的にプロバイダー側の論理として、貴重な医療資源をいかに配分するかという話がなされていたと思う。それは全くその通りだと思うが、一歩引いて患者サイドから見ると、それだけでは不安がある。患者さんが救急を受診するのは、現実にそこに不安があるからで、トリアージだけで済ますことはできず、そこにもう一段クッションが必要でないか。需要をいかにコントロールするかが問題だ。別に医療者がやらなくても構わないが、そういう所へ手を打って行くことも必要でないか」
高久
「岡山県の新見市でも丹生さんたちと同じようなことをしている人たちがいる。そういう動きを広げていくことが大切だろう」
有賀
「和田先生の仰る通りであり、救急搬送が多いというのは、救急隊が困っている話ではなく患者さんが困っている話だ。数を減らすだけという提供側の視点に立つんではなく、軽症者の搬送が減れば、その分本当に必要な人で使えていない人に振り向けられるようになるという視点が必要。患者さんの視点に立って救急医療をどうしようか考える必要がある。
その意味では、市民がどういう教育をされるのか、どういう看取りを希望するのか、国家レベルで何らかの教育、納得する仕組みづくりしていかないと需要と供給との関係はアンバランスのままだろう」
高久
「では時間になったので終わる。次回は医師とコメディカルの問題、スキルミックスの問題について佐賀大学の井上さんに来ていただいて議論する。大臣最後に一言どうぞ」
舛添
「救急の方はトリアージをどう位置づけるかという話なんだろう。トリアージ専門の医師が地域に1人いれば助かるんだろうが、それこそ家庭医と専門医との連携がトリアージそのものだろう。その時に考えないといけないのは、家庭医が仮に、正確に判定できずに、うまく専門医と連携しなかった時に責任追及されるとすると医療者は不安だろう。
私が7年前の選挙で網膜剥離をやった時も、広島で遊説していて、そこで入った眼科の開業医は発見できなかった。静岡まで行って、夜中に当直の若い医師、その医師免許を見たら『厚生労働大臣小泉純一郎』と書いてあった、それ位若い医師だが、彼が診たら失明寸前だった。遊説を取りやめて新幹線で頭を下にして帰って、ネットで検索して新宿の東京医科大病院に駆け込んで、眼は何とかなった。広島のお医者さんがちゃんと分かっていたら、もっと早くよくなっていた。網膜はく離の前段症状なんて素人には分からないから、目にゴミが入ったんでしょうと言われたらそうかなと思ってしまった。そもそも行った所がコンタクト専門医で本当に医者だったかどうかも怪しい。今、そういうのは取り締まりを厳しくやっているが。とにかくトリアージの問題は重要だと思っている。
それから段々予算要求の期限が迫って来て、救急や産科の医師に対して直接手当を出すのはやろうと考えている。それから医学部の定員の話も、鈴木恒夫さん(新い文部科学大臣)は昔から親しくて早速電話して、彼が閣僚になった時に、『渡海さん(前文科相)と約束したから、ちゃんと医師の数を増やすべきだ』と話した。そうしたら彼も、自分の娘さんが関西からお産のために来たら、病院の麻酔医がいなくなって『出てくれ』と言われたそうで、非常によく分かっている。文科相とも連携を取りながら、まずお医者さんの数をどう増やすか。
骨太の方針で『過去最大程度まで早急に』としているが、できれば、今年度確定する来年度予算で過去最大を一発でやってしまおうか。それでも足りない時は、需給の調整は見ながらやっていく。それと、こういう話をすると『10年がかりの悠長な話はやめてくれ』と言われるので、研修制度の見直しや、再雇用のための再研修をどうするかなど含めてやっていきたい。
いろんなアイデアがあるが、地域のネットワークを地域に合った形でやる原則は守りたい。新しい内閣になっても基本的な方針は変わらない。むしろ社会保障は最重要課題として扱うということを総理も言っていた。救急医療体制の再構築は、福田内閣の最重要課題だから、きちんとしたデータ、きちんとした議論で要求すれば必ず通る。皆さんのご協力をいただきたい」