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小児科の「現在」

子どもの医療は、ここが大人と違います。

 そもそも、なぜ小児科医というものが存在するのでしょう。大人相手の医師に子どもを診てもらってはいけないのでしょうか。それが許されるなら、「足りない」ことはないはずです。
 親御さんからみれば突拍子もない問題提起かもしれません。でも昔は、かかりつけ医に家族全員お世話になるのが当たり前だったのですから、そうムチャな話でもないはずです。もちろん違法行為でもありません。
 ただし、これで済むなら全国から悲鳴の上がるはずもないわけで、現実には医師側が非常に嫌がります。大人と子どもとでは、いろいろなところに違いがあり、本当に軽い疾病ならともかく、少し難しいものについては下手に手を出すと予期せぬことが起きて「おっかない」からです。
 さらに子ども相手だと事故が起きた時に話がこじれる確率が高く、下手をすると訴えられかねない、という思いもあります。危ない橋を渡りたくないのは誰しも同じですから、なんと後ろ向きな! と怒ってみても始まりません。
 それでは、一体何が大人と違うのでしょう。
5-2.2.JPG まず、小児期に特有の病気があります。それが頭に入っていないと、誤診しかねません。医師ならそれくらい覚えておけ、と言いたくなるかもしれませんが、人間誰にも能力・努力の限界はあります。
 もっと簡単に気づく差異もありますね。体のサイズです。そして、子どもは単なる大人のミニチュアではありません。体全体は小さいのに既に大人並みの大きさを持った臓器があるかと思えば、未成熟な臓器があったりして、配置も働きも微妙に異なるのです。それに慣れていないと、戸惑うことになります。
 当然、体全体の機能も違います。子どもの場合、体の状態を一定に保つ機能が未熟なため、病状変化や薬に対する反応が激しくなりがちです。このため、例えば鎮痛剤のボルタレンのように、大人には当たり前に使う薬が禁忌だったりします。
 一方で、子どもの方が回復力は高く、大人なら治療で死んでしまうような強力で高価な治療を施すことによって、後遺症もなく治ってしまうことがあります。そういう強力な治療もまた、慣れていないと踏み切れないものです。
 結論としては「大人と子どもは別の生き物と考えた方がよい」ということになります。小児科医の存在する理由も分かってきます。
 社会学的に考えても、やはり小児科医は必要と思われます。医師とのコミュニケーションの部分も、大人とは全然違うからです。客観的に自分の病状を説明することができませんし、医師が自分を治そうとしてくれていることすら理解できない場合もあります。全力で泣き叫び暴れる相手に注射する。慣れていないと、考えただけでも、おっかない仕事です。
 大人相手の医師が子どもでもよく診られるはずと考えるのは、大学教授なら保母さんの役割を果たせると考えるのに似ているかもしれません。

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